第7話 幹部会議(4)
「くだらない、だとぉぉ~!?」
俺の発した言葉に、予想通り怒り心頭に達するグラキルス。
グラキルスを包む大きな氷の鎧はその形を徐々に完成させていき、今では、両手を地に付けた上半身だけの氷の巨人へと形を変えていた。
「アハハッ 、ますます グラ君を怒らせちゃったね。」
「いや、あの言葉は相手を挑発して、力を引き出させるためだなぁ。」
「全力を出させた上で、倒すわけか。 さすが リオンだ。 ガハハ!」
俺の先程の発言にポカンとしていた幹部達が勝手な解釈をするが、勿論俺にそんなつもりはない。
「やめろ!」 や 「落ち着け!」と言ったところで、頭に血が上ったグラキルスは止まらないだろう。
ならもう怒らせたまま説得するしかない。
(とりあえず、軽くリオンの言葉でジャブだ)
さらに怒らせてしまったが、おかげで俺の言葉の真意を確かめようとし、攻撃せず話を聞く気になったようだ。
それが、
「何がくだらないか、説明してもらおうか?」
氷の巨人付きではあるが、とりあえず話を聞いてくれる気はあるらしい。
いきなり氷柱が出てきて攻撃されることはないだろう。 …多分。
(落ち着け、俺 。 ここからだ…)
まずは緊張しているのを悟られない様、 気を付けながら深呼吸をする。
(スゥ~ ハァ~ スゥ~ ハァ~ …よし。)
落ち着いたところで、しっかりと話す
「フーッ、 フーッ !! リィオォン、この野郎…ッ ぶっ○すッ!」
(……………うわ~、完全に目がイッてるよ。)
直視するのはきついが、目をそらしちゃだめだ。
(よし、いくぞ!)
「…グラキルス、俺はお前の考えの足りなさを、くだらないと言ったのだ。」
「なにぃ!?」
「お前は魔王軍の作戦参謀であり、 そして、魔王軍一の頭脳の持ち主だ。」
「ああ、そうだぁよ!」
「確かにお前の仕事は、魔王軍が勝つための作戦を考えることだ。しかし、お前には―」
「だから、僕はそのための作戦を考えているじゃないか!」
「こほん…しかし、お前には―」
「それなのに、あの低脳どもは言うことを聞かないんだッ!」
「いや、だから、 ちょっと話を―」
―ドコォォンン
大砲の形をした氷の巨人の十本の指から、つんざく砲音とともに氷の杭が放たれた。
「おっと。」
「あらまあ。」
「アハッ☆」
例のごとく、他の幹部達が魔法で防御したり破壊したりしている中、当然俺は何も出来ず、発射された氷の杭は座って固まったままの俺の横を掠めた。
(…えぇ~~、普通、話の途中で撃つかなー?)
いや、既に状況が普通じゃないんだよな。
(びびるな、続けるぞ。)
俺はなんとか勇気を振り絞って話を再開する。
「しかし、お前にはもう一つ考えなければならない事がある。それは、仲間の事だ。」
「…ッ!? またそれかぁ」
「 先程クレアが言った様に、皆はお前を信じて、お前の作戦に命を預けている。
だからお前は、仲間を死なせてはならない。」
「勝つための必要な犠牲だと言っているだろう!駒を的確に使うのが、作戦参謀たる僕の役目だ!」
「違う。犠牲を出すことでしか結果を出せないのは、無能の考えだ!」
「む、無能だと…この僕が」
「そう…目先の結果だけに囚われ、部下を使い潰そうとしている。人的損失を生むだけでなく、こうして幹部同士の組織内で不和が生じている。…ふん。お前はまさに、リスクマネージメントが出来ない上司そのものだ。」
「なんだとぉ~!?ならば、どうしろと—」
「お前のやるべきことはまず、仲間を守る事だ!お前には強力な力と魔王軍一の頭脳がある。その力と頭脳を活かして、仲間を守ることがお前の役目であり、お前にしか出来ないことだ。」
「僕にしか、出来ない…こと」
「そうだ。つまり作戦参謀とは、仲間の命を守り、活かし、勝利に導く者。お前は、魔王軍の皆が命を預けられる重要な立場であるという事を自覚しろ!」
「…………ッ!」
グラキルスは、ハッとした様に目を見開く。
そして、その場で動きを止めたと思うと、そのまま俯いてしまった。
グラキルスの周囲を凍て続けていた氷が止まり、氷の巨人が徐々に溶け始める。
「…リオンさん。」
さっきとまで違い、落ち着いた声でグラキルスが俺を呼ぶ。
「覚えていますか? 僕とリオンさんが初めてお会いした時の事を。」
「…あぁ。あれは、お前が俺の軍団に入団した時だったな。」
「…いえ、まだ魔王学院の学生だった時です。」
「…………」
はい、すみません。 当てずっぽうでした。
(ていうか魔王学院の学生って、魔王軍にも学校あるのか?)
「…学生の頃、魔王軍と人間軍の戦争の歴史について研究していた僕は、研究に行き詰まり、 無理言って父の知り合いに 戦場に連れていってもらいました。」
(…グラキルスの過去か。 一応、聞いておくか。また、記憶に抜けがあるかもしれないし。)
「そこで僕は運悪く、勇者と出くわしてしまいました。」
(……勇者?)
リオンの記憶から検索する。
頭の中が靄がかかっているかの様で詳しい事は見えないが、確かにこの世界には存在する様だ。
(魔王もいるし、勇者がいたって不思議はないよな。)
「隊は全滅し、父の知り合いもそこで命を落としました。 僕一人だけになり、勇者に追い詰められたその時でした…リオンさんが助けに来てくれたのです。」
グラキルスは俯いていた顔を上げ、俺を見る。
「激しい戦いの末、リオンさんは見事、勇者を追い払いました。その時、貴方が僕に言った事を覚えていますか?」
「…ふん、さあな。」
(すみません、わかりません。)
「目の前で全滅していく皆を見てるだけで何も出来なかったと泣く僕に、
『…誰よりも仲間を守れるくらい強くなれ。』と、言ってくれました。
僕はその言葉を胸に、魔王軍幹部になるため頑張りました。」
(…そういう事言う奴なのか。なんか意外。)
「先程貴方が言った様に、今の僕は誰よりも仲間の命を守る立場にいる。しかし、効率よく勝つ事ばかり考え様になり、昔貴方に言われた事を忘れてしまっていたようです。」
物忘れとは、魔王軍一の頭脳もまだまだですね…と、自嘲気味に笑うグラキルス。
グラキルスが話し終わる頃には、氷の巨人は完全に溶けて消えていた。
「すみませんが、僕は自室で頭を冷やしますので、会議は早退します。」
そう言って、グラキルスは扉まで歩いていく。
扉の前で立ち止まると、 振り返らずにグラキルスが言う。
「……今日は、お騒がせしました。これからは犠牲を出さず、 皆が納得のいく作戦を考えれる様に努力します。」
グラキルスがそのまま扉を開けて退室ようとすると、
「次の作戦、期待しているぞ!ガハハ!」
「お願いしますね、グラキルスさん。」
「楽しみに待ってるからね~☆」
「マシな作戦が思い付かないなら、軍神と言われた私を呼びな。話くらい聞いてやるよ。」
「クケケ」
「…ふむ。頼りにしてるぞ、
幹部達がグラキルスの背中に声をかけていく。
背を向けたまま、グラキルスは手を眼鏡のある位置まで持っていく。
眼鏡クイッをするにしては、若干その指が眼鏡の内側にあった様に見えた気がする。
「……失礼します。」
そう言って、グラキルスは会議室を後にした。
『………………………………。』
騒がしかった室内に静寂が訪れる。
「…ふむ。」
しばらくして、クレアが口を開く。
「ご苦労だったな、リオン。 君の説得のお陰で、彼も良い意味で考えを改めてくれるだろう。」
「…ふん、くだらん。」
(いえいえ、どういたしまして。)
「…とは言え、」
クレアが室内を見渡す。
テーブルや椅子は壊れ、天井や壁は穴だらけとなり、氷柱や氷の巨人が溶けた事で、室内は水浸しになっていた。
「これでは、会議はできんな。仕方ない。」
室内の惨状を見て
「本日は、これにて閉会とする!」
会議終了を告げるのであった。
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