第6話 幹部会議(3)
(さて、どうしょうか…。)
幹部同士の意見の違いから始まった会議中のいざこざ。
部屋が凍り、 地面から大きな氷柱が出てきて天井や壁に刺さっている。
そのイカれた所業を成した狂った
「フーッ、フーッ、 リ~オンさ~んっ…」
口から冷気を吐き、血走った目を見開きながら二本の指先でズレた眼鏡を直す。
(あんな怖い顔した眼鏡クイッは、初めて見たな。)
とてもじゃないが…いや、とても説得できる気がしない。
実は元部下だっていうのも、今知ったばかりだ。
(だが、策はある!)
いきなり説得しようとするからハードルが高いのだ。あんな状態では何を言っても聞いてくれないだろう。
ならば、まずは大人しくしてもらう。
俺は横にいる『軍神』こと、イザベラをチラッと見る。
(イザベラは、グラキルスの氷柱が自分に向かってきた事で、喧嘩を売られたと思っている。)
そこでだ…、
(まずは二人に戦ってもらい、弱って大人しくなったグラキルスを説得する。)
そう、『モンスターは弱らせてから捕まえる』
俺の元いた世界での常識、 それの応用だ。
「グラキルスがリオンの元部下だぁ? そんな事、知るかよ!」
先程立ち上がったイザベラが吠える。
(よぉし行け、イザベラ! コテンパンにおやりな! )
しかし、イザベラは自分の椅子に座った。
(………あれ? バトルは?)
記憶で得た情報では、戦いが好きで喧嘩っ早い性格のはず。 さっきも怒っていた様だが…。
「ちっ、リオンが話を付けるっていうなら、私の出る幕はねぇな。」
イザベラは横目で俺を見て、口を尖らせながら拗ねる様に言った。
(いや、あるよ! アンタの出番だよ!寧ろ、俺が袖幕に引っ込みたいわ!)
「ったく、今回は譲ってやるよ。」
(いらねーよ!!)
…作戦失敗。
(くそっ だめだったか!)
他の幹部をけしかける事は出来ないかと考えるが、
「リオンよ、あの馬鹿に説教と拳骨の一つでもくれてやれ! 」
「そうですね。 グラキルスさんにはきついお灸を据えなくてはなりませんよね、リオンさん。」
「お仕置きしちゃえ~ リオン君☆」
「○しちゃったら、死体は僕にくださいね。 クケケ」
(え、なんか俺が戦うみたいな流れになってない?)
「私は話をしろと言ったんだ。変な気を起こすんじゃないぞ、リオン。」
クレアが俺をギロリと睨む。
(起こさねーよ! お
「…リオンさん、貴方までもが僕に楯突く気ですかぁ? 貴方だけはまともな方だと思っていたのにぃ!」
(俺も、第一印象のお前はまともな奴だと思っていたよ!)
氷使いならヒートアップしないでクールになれ。
(しかし、これは更にまずい展開だ。)
助けは無いし、他の幹部は俺を戦わせようとしてるし、グラキルスは完全に俺を自分の敵だと思っている。
(もし、奴が次に氷柱を出せば、間違いなく俺は串刺しになるッ!)
「リィィオォンざぁぁんッ」
グラキルスの周りに冷気がゆっくりと漂い、術者本人を包みこみながら凍っていく。
「むっ、あれをやる気か!?」
(あれがどれかわからんが、やばいことになりそうなのはわかる!)
パキッ パキッ…
割れる様な音とともに、グラキルスを包む氷は、凍てつきながら徐々に大きさを増していき、大きく禍々しい氷の鎧の様な形となった。
(なんだ、あれは!?)
グラキルスのサイズを遥かに越える大きな氷の鎧は、さらに凍てつきながら形を成し、腕や手が出来上がる。
やばい、やばい…!
(考えろ、どうすれば奴を止められる!?)
魔力のない状態では、力で捩じ伏せるのは無理。
他の幹部を戦わせるのもできない。
たが、ここで俺が何もしなければ、正体を怪しまれる可能性もある。
今からでもグラキルスの肩を持つという手もあるが、そうなると他の幹部達を敵に回す事になりそうだ。
とすれば、
(やはり、あのキレ眼鏡幹部を説得するしかない。)
しかし、下手な事を言えばグラキルスはまた怒り狂うだろう。
(どう説得するか…なんて言えば、)
――『いいですか、リオン様。 ――前みたいに、「ふん、くだらん。」て言って会議をさぼらないで真面目に――』
(………あっ)
先程のクロエの言葉を思い出す。
「リィィオォンざぁぁん、何故何も言わない?僕なぞ、話をする価値もないということかぁ!?」
氷の鎧はより禍々しく形を変えながら膨れ上がる様に凍り、更に巨大化していく。
俺の言葉じゃとてもじゃないが…いや、とても説得できる気がしない。
だが、
俺のミッションは、中身が別人だとバレないことであり、
リオン・アウローラを演じてこの会議を乗り切ることだ。
ならば、
リオンの記憶を探り、記憶の中からリオンが言いそうなセリフをチョイスして、上手く語り掛けるんだ。
まずリオンがどんな奴か、仕草や口癖、その人物像を記憶の中から読み取る。
確か、奴のモットーは…、
(余計な事は考えず、構えず、泰然自若、冷静沈着。)
それに奴の口癖は…
(…なんか、それっぽい感じだな)
…よし、リオンの人物像はわかった。
(さあ、あとはリオンの言葉 でリオンぽい感じでこう言えばいい。)
俺は顔を引き締めて、口を開いた。
「…ふん、くだらん。」
『………………はぁ?』(幹部一同)
「…………あ゛ぁ゛?」(グラキルス)
「…………クケケ」(ネヴァ)
……あれ、ちがった?
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