時代小説をお勧めしたりしなかったり 池波正太郎先生編

 司馬遼太郎とは少しジャンルが違うものの、日本史を題材にした小説家として人気を二分したと言っても過言ではないのが、池波正太郎です。


 様々な時代の歴史小説を残した司馬遼太郎と比べて、池波正太郎の時代小説は江戸時代、それも江戸の町を舞台とした小説が多いです。


 代表作は、やはり「鬼平犯科帳」でしょうか。

 時代劇ドラマが一般に知られていますが、先日亡くなられた、さいとうたかをさんがコミカライズをされていることでも有名です。

 もう一つのお勧めは、「剣客商売」です。

 江戸中期が舞台なのですが、連載当時としては珍しく、老中田沼意次が人格者として描かれていて、池波正太郎の先見性が窺える作品でもあります。


 池波正太郎が他の時代小説家と一線を画している点は、江戸の人々の生活を微に入り細を穿つ描写をしている点にあります。

 特に評価されているのが、料理です。

 日本料理の原点の一つは、江戸時代中期の江戸の町です。

 ウナギのかば焼きやてんぷらなどは、この頃に庶民の口に入るようになり、知名度を上げてきました。

 池波正太郎は江戸の町の料理に関して造詣が深く、資料的価値も高い本も確か出版されていたと思います。興味がある方は検索を。


 ですがやはり、池波正太郎の真骨頂といったら、やはり「情」でしょう。

 鬼平犯科帳が、その好例だと思います。


 主人公の鬼の平蔵こと長谷川平蔵は、とある事情で複雑な少年期を過ごし、町人の世界に深く触れていた時期があります。

 その経験が、火つけ盗賊改め役長官の役に付いてから、役に立っています。

 要は、盗人を一様に罪人と決めつけるのではなく、「人情」を持って接しているのです。

 その様子は、重罪を犯していない元盗人を、あえて自分の密偵として重用していることからも窺えます。


 その一方で、殺しや火付けの罪を犯したなどの極悪人には、一切容赦しません。

 時には庶民を守るために、通常の司法手続きを経ることなく、「非情」を以て悪人を断罪することもあります。鬼の平蔵と呼ばれる所以です。


 鬼平犯科帳の最大の魅力は、この長谷川平蔵の情と懐の深さにあります。

 私の拙いどころではない表現では、万分の一の魅力も伝えられた気がしません。

 ぜひ、一度は読んでほしい作品です。

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