時代小説のラノベへの活用 1

 さて、前置きはこのくらいにして――冗談です。

 先の司馬遼太郎と池波正太郎をお勧めしたのは、紛れもない本心です。

 本当は、もう二、三人ほど、小説家を紹介したいのですが、藤沢周平は作品が今は手元にないですし、佐伯泰英先生は御健勝なので呼び捨てはできないですし(意味不明の自覚はあります)。それはまたの機会に。

 ですが、カクヨムの主流は、やはり異世界ファンタジーです。

 そこに触れずして、私の言いたいことは伝えられません。


 では、本題に入りましょう。

 異世界ファンタジーを書く上で、私が歴史・時代小説を読むことをお勧めするのは、


 歴史を知らずしてファンタジーは書けない


 ということです。


 一例を挙げてみましょう。


 ファンタジーを書く上で欠かせない要素とは何でしょうか?

 勇者、魔王、伝説の武器、頼れる仲間、永遠のライバル。

 どれも重要ですが、必須というほどではありません。


 ファンタジーにおける必須要素、それは権力機構です。


 分かりやすく言えば、主人公が暮らす王国や、魔王が統べる魔王軍などですね。

 では、その支配構造を考えるにあたって何を参考にするかというと、百人中九十九人が、中世西洋の王国と答えることでしょう。


 それはなぜか?

 簡単な話です。


 日本人にとって、中世西洋の王国は権力者のテンプレのようなイメージが定着していて、特定の国に絞らない限りは、多くの人に受け入れやすい土壌がすでにできているからです。(まあ、実際には政治的基盤が不安定な王がほとんどで、教会や各領主、騎士などの板挟みに遭って、なかなか絶対的権力者とはいかなかったのが実情のようですが)


 ですので、ファンタジー世界を形成する上で、中世西洋を設定として引っ張ってくる人は、私のような素人から、プロとして活躍する有名作家まで、幅広い層に存在するわけです。


 ですが、ここで一つ、読み手と書き手の間で、決定的に違っていなければならない知識があります。

 それこそが、歴史への理解度です。


 例えば、一般的に西洋貴族の爵位と言えば、


 公爵 侯爵 伯爵 子爵 男爵


 という順番です。

 ここに、辺境伯や騎士爵を入れる書き手もいるでしょうが、ややこしくなるので今回は割愛します。


 では、読み手がこの順番を覚えている必要があるかというと、私は特に必要ないと思っています。

 なぜなら、ほとんどの読み手にとって「貴族は偉い」という情報さえあれば十分で、二人目以上の貴族が登場しない限り、爵位の序列なんてものは蛇足でしかないわけです。


 一方で、書き手が貴族の序列を知らない場合、非常に困ったことになります。

 つまり、二人目以上の貴族を作中に登場させられないのです。

 強いて言うなら、同じ爵位で登場させるというのもアリと言えばアリですが、その時点で、貴族社会という世界観は小さく閉じられたものになってしまいます。


 はっきりと言うと、物語の世界の一つの限界を迎えてしまうわけです。


 今回の例は、ネットで調べれば物の一分でわかるような簡単なものですが、実際にはもっと深く複雑な、ある要素を知らないと、貴族らしさというものは表現できません。


 それについては、次回ということで。

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