その12

 あとはいつもと同じだ。

 到着した警官せいふく刑事しふくに、毎度おなじみの嫌味を投げかけられたが、俺が素直にICレコーダーのメモリーを、”あんたらの手柄にしなよ”と嫌味たっぷりに告げて渡してやると、向こうもそれ以上何も言わずにやるだけの事をやって引き下がっていった。

 まあ、向こうも犬神誠太がこれほどの事件をやらかしているなんて思ってもいなかったんだろうし、それを丸ごと自分らの手柄に出来たんだから、文句を言いたくっても、口に出来なかったんだろうな。

◇◇◇◇◇◇

『有難うございました』

 犬神春枝は事務所にやってくると、前のように丁寧に頭を下げ、俺から報告書とメモリーを受取った。

 ああ?

”メモリーは丸ごと警察オマワリに渡したんじゃないのか”だって?

 俺はプロだぜ。

 バックアップくらい取っておくさ。

 内緒でもう一台、別のレコーダーを回しておいたに決まってるだろ。

”あの日”から2日経っていた。

 何でも彼女の所にも警察から任意で呼び出しが来て、根掘り葉掘り聞かれたが、

彼女は”あの死体は本当に兄だと思っていた。それ以上の事は分からない”で押し通したので、向こうもそれ以上突っ込みようがなく、放免されたんだという。

『あの・・・・それで兄はどうなるんでしょう?』

 彼女は些少ですがといい、封筒をバッグから取り出して俺の前に置きながら訊ねた。

『さあ、今の段階では何とも。あるとすれば監禁と過失致死。その他諸々で送検はされるでしょうが、君の兄さんは警察での取り調べで黙秘を貫いているし、”同志”とやらも同じですからね。あと、実際に監禁されてた四人も、元はと言えば自分達に負い目があるんですから、今の所告訴もしていないみたいです。後は裁判と弁護士の腕次第でしょうな』

 俺は彼女から受け取った封筒の中身を数えてから、素っ気なくそう答えを返す。

 春枝はまた深くため息をつき、ソファから立ち上がって頭を下げると、事務所を出て行った。

 手間が多い割には、何だかつまらん事件だったな。

ああ?

”またこれか、お前の事件ヤマには波乱万丈が無さすぎる”だとぬかすんだろ。

 知らないな。

 俺には関係ない。

 こっちは依頼を片付けて、金が貰えりゃそれでいいんだ。

 世に知られた名探偵とは違うんだぜ。

 現実ってのはこんなもんさ。

                        終わり

*)この物語はフィクションであり、登場する人物、場所、その他全て作者の想像の産物であります。

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犬神誠太の犯罪 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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