その11

 幸い、俺の撃った弾丸は見事に貫通していた。

 出血もそれほどない。

 俺は用意した救急キットで、他の連中と同じく、取り敢えず手当を施し、

 取り敢えず110番をして、事の次第を説明した後、ICレコーダーを取り出して、

スイッチを押した。

『さあ、喋って貰うぜ。辛いだろうが、これも仕事なんだ。お前さんも元は探偵どうぎょうだ。あと、黙秘権って奴もある。その位分かるだろう。』

 俺はお馴染みのフレーズを伝える。

 面倒臭いには違いないが、”私立探偵の義務”なんだから仕方がない。

『・・・・それより、先に聞かせてくれ・・・・あんた、どうして俺の事が分かったんだ?』

 俺は、

『個人情報の秘匿って奴があってね。詳しくは教えられない。ただ”蛇の道はヘビ”とだけ答えておこう』それだけ言った。

”じゃ、俺も喋らん”そう返されたらどうしようかと思ったが、彼は意外と素直に語りだした。

 彼はまず、自分という存在を世の中から消すことを一番に考えた。

 つまり、あの空き家で発見された死体である。

 あの男は、新橋の呑み屋街にある、一軒の小料理屋で見つけたという。

 最初の条件は自分と同じ背格好、体形だった。

 こっちから向こうに声を掛け、酒をおごり、警戒心を解いて、心を開かせ、色々な情報を聞き出した。

 偶然の一致とは恐ろしいものだ。

 年齢、そして血液型まで、自分と同じだったのだ。

 後はそれほど難しくはなかった。

 店から連れ出し、もっと高級な店で呑ませた。無論その時には酒の中に風邪薬を混ぜるのを忘れなかった。

 そいつの意識が無くなるまで泥酔し、脈が途切れるのを確認し、彼は自分の服を着せ、やがて脈が途切れるのを確認して、誰にも見られぬように廃屋を後にした。

 彼は”犬神誠太”という、自分の本体を捨てた。

 その後彼は新聞を見て、妹があの死体を”兄”だと認めてしまい、埋葬もしてしまったのを不思議に思うと同時に、ホッとした。

『あの連中はどうやって集めたんだね?と聞きたいところだが、俺はもう既に知っている。間違っていたら否定してくれ。

君はあるアニメ専門雑誌の広告で、大昔に流行ったヒーローもののアニメのファンクラブを作るため、会員を募った。

 そのアニメはそれほど有名なものじゃない。ごくマニアックな作品だった。

 一人のいじめられっ子が、自分と同じ体験をした者を集め、武装集団を結成する。

 そして自分をいじめた奴ら、そしていじめを見て見ぬふりをした教師たちに復讐をする。そんな内容だった。

 そして呼びかけに応じて集まった同志たちに、君は本当の計画を打ち明けた。

 彼らはそれを理解し、君の計画に同意した・・・・どうだ。違うかね?』

 犬神誠太・・・・いや、犬神誠太の死人は否定しなかった。

『でも最後はアニメの通りになってしまったな。結局いじめられっ子の目論見は、主人公のスーパーヒーローによって粉砕されちまったんだ・・・・』

 彼はそう言って恨めし気な目で俺を凝視みつめ、大きく息を吐いた。

 俺は何も答えず、レコーダーのスイッチを切り、スマホで110番をして、直ぐに警察に来て貰うように依頼をした。

『これ以上何を喋っても、あんたには分からんだろうな・・・・小学校、中学校、高校と、12年間もの間、誰にも庇って貰えず、理不尽ないじめを受け続けてきた人間の気持なんか・・・・』

 ほどなくして、パトカーのサイレンが聞こえ始める頃、犬神誠太は、唇を歪めて

言葉を吐いた。

『それがどうした?』

 俺は答え、そこでシナモンスティックを取り出して齧る。

『お前さんの恨み節なんか、聞いたって一文の得にもなりゃしない。後は刑事オマワリに調べ室で聞いて貰うんだな』


 


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