その9

 石段を上がり切ると、そこは荒涼たる・・・・いや、俺の鳩尾より下が、すっかり隠れるくらいまで、雑草が生い茂っていた。

 俺は一旦地面に這いつくばるように全身を沈め、夜間用の赤外線ゴーグルを取り出して掛け、もう一度草の上に顔を覗かせた。

 凡そ10メートル程向こうの草が、不自然に動く、

 何かが顔を覗かせた。

 人だ。頭のてっぺんから足の先まで黒装束で極めている。

 鈍い銃声が響き、俺のすぐ横の葉が飛び散る。

 再び身を沈め、出来るだけ距離を詰めた俺は、いきなり立ち上がり、スリングでパチンコ玉を、黒装束の顔面に叩き込む。

 向こうは銃を構える間もなく、後にのけぞって倒れた。

 俺は奴の傍に近づき、足跡を探す。

 そこを辿ってゆけば、どこから来たかが分かる。

 その後、二人ほど俺にかかってこようとしたが、拳銃を使うまでもなかった。

”ジョージにも感謝しなきゃな”

 俺は腹の中で呟いた。

 草原が途切れたところに、コンクリートブロックを積み上げただけの、正方形の建物が見える。

 ゴーグルで透かして見ると、入り口に当たるところに、UZIを構えた、やはり黒づくめの男が見張りに立っている。

 俺はポウチに手を突っ込み、円筒形の黒い茶筒のようなものを取り出し、ピンを抜いて思い切りそいつに向かって投げた。

 鋭い光と轟音が、あたりに響く。

 見張りが一瞬ひるんだ。

 直ぐに俺の存在に気づき、銃口をこちらに向けた。

 だが、俺の方が早く、腰のナイフを抜き、男を壁に押し付け、切っ先を喉元に突き付けていた。

『声を立てるな。銃を捨てて、何も言わずにドアを開けろ』

 男は俺の言う通り、UZIを足元に放り、ドアの鍵を開ける。

『どうした!何があった?』下から怒号が響く。

『動くなよ。無駄な犠牲は出したくない。』俺は見張りの男のこめかみに、M1917の銃口を突き付けて凄んで見せた。

 そこは半地下のような状態になっており、入り口から下に向かって、鉄の階段があり、こちらが見下ろすような形で、かなり広い空間があった。

 そこにいたのは、銃を持った同じような四人の黒づくめ。それから、行方不明のうち三人が、ある者は椅子に縛られ、ある者は床に転がされていた。

『た、助けてくれ!』

 俺が盾にしていた見張りの男が叫ぶ。

 下にいた男たちの四つの銃口が、一斉にこちらを向いた。

 俺は男を突き飛ばす。

 奴は鉄の階段を、まるで坂道を転がるドラム缶のような体で、跳ねながら転がってゆく。

 次の瞬間、俺はM1917を抜き、三連射。

 確実に三人の肩を撃ちぬく。

 俺は階段を飛び降り、一気に下に着くと、残っていたもう一人の腰の辺りに向けて撃った。

 辺りを見渡す。

 黒づくめ四人、人質が三人。

 俺は自分が撃った四人の応急手当てを手早く行い、

 一人の襟を掴み、

『人質は四人の筈だな?どこにいる?』

 と、凄んで見せた。

 覆面越しに荒い呼吸をしながら、そいつは直ぐ後ろを指さす。

 そこにはもう一つ、鉄の扉があった。

 


 

 


 

 

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