異端者の扱い窺い

 ツァラヌ男爵は自らの寄親であるフロレスク伯爵に、マドカの事をどの様に扱うべきかを問うふみしたためていた。

 その文にはこの様に記されていた。

 先日ペス村に大量のゴブリンが襲撃を掛けてきた際に、救援をしてくれた恩人である旨と、その恩人の類い希なる才覚についてだ。

 だが、その才能はあまりにも先進的であるが為に、異端としか捉えられない程であると。

 ツァラヌ男爵は先日、本人から聞いたとある逸話を思い浮かべる。


 マドカがツァラヌ男爵に請われて、今まで諸国を巡ってきた中でマドカの経験を話している最中の事であった。

 ツァラヌ男爵は、そのマドカの才能を持ってすれば何処かで仕官することも出来たのでは無いかと問うたのだ。

 それに対してマドカは答える。

「探究心が先に立ってしまうので、どうにも受け入れられないのです。

 例えば…」

 ある場所で行ったのは獣人について実験だ。

 人の性質と獣の性質を持つ種族がどの様に生まれたのか?

 マドカは獣人が人との間で子を成せると言う事柄から、ある仮説を打ち立てた。

 それは、獣と人がまぐわった結果では無いのかと。

 現在では獣との行為が行われなくなっているが、過去では極当たり前に行われていたのでは無いかと。

 そして、その仮説の元にマドカは様々な動物と実際に媾ったのだ。

 その結果、とある存在との間に子をなす事に成功する。

 その存在とは、見た目は狼の姿をしているが、魔法により意思疎通が可能だった個体であった。

 狼の姿の為、人語を操る事は出来ないが為に、その存在が人と同様の知識を得ている事に誰も気付けていないだけだったのだ。

 マドカはこういった存在がいる事を、様々な獣と行為を及ぶ中で発見したのだ。

 だが、これを素直に報告をした際に異端者として認知されてしまった為、逃れてきた結果この地に辿り着いたというのだ。

 因みに生まれた子供と母親はその時に殺されたと、あっけらかんとした面持ちで答えたのだった。


 ツァラヌ男爵はこれを聞き頭を抱える事になる。

 この話をマドカから引き出すまでの数日の間、マドカの有能さを見てきたが為に、彼を手放す事による損失と、彼を手元に置く危険性の狭間に置かれてしまったからだ。

 様々な動植物に対する知見、永い旅程を歩んできて培ってきた様々な経験、さらに危険に対する為の武。

 マドカは魔法だけでは無く、近接戦闘術にも長けていたのだ。

 いや、長けているという次元では無かった。

 身体構造をつぶさに観察しそれを活かした戦闘術。

 並みの者では至る事が出来ない境地に齢二十と言う若さで、既に足を踏み入れていたのだ。

 離れれば強烈な魔法で攻撃され、近づいたとしても制圧するのは容易では無い存在。

 経験に裏打ちされた様々な知識や技術。

 だが、人の死体を解剖する。時には生きた状態で行う事もあったという。

 これらの貪欲に知識を得る為の様々な行為が、異端としかツァラヌ男爵は思えなかった。

 ツァラヌ男爵は彼の能力は類い希である事に何の疑いを持たなかったが、それと同時に自身では扱いきれない存在であるとも認識した。

 それ故に自身の寄親であるフロレスク伯爵に伺いを立てたのだった。

 ツァラヌ男爵は封蝋をした文を、村を訪れていた行商人へと渡す。

 この行商人は伯爵家御用達のギルドに籍を置く商人で、伯爵とその寄子が治める地域で商いをしつつ、今回のように連絡手段として活用されている者であった。

「確かに受け取りました」

「頼んだぞ」

 行商は男爵とここ最近の王領の様子も軽く話し終えると暇乞いし離席した。

 ツァラヌ男爵はそっと窓へと寄った。

 外は眺め見れば、そこではマドカの指導の下、鍛錬に励んでいる息子の姿があった。

 その姿を見ながら男爵は、伯爵からの返事がいつ頃来るのかと胸中で考えていた。


 認めた文の内容であれば、直ぐにでも返事が来るだろう。

 そうなると四日程か。


 男爵は有能だが扱いに困るマドカと、しごかれながらも気付きを得る事で瞳を輝かせている息子の姿を眺めていた。

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