森の際

 木漏れ日指す静かな森のきわ、林と言って良い場所に私は居た。

 周囲に目を遣れば直ぐ其処で木々は途切れ、人の手がよく入った田畑が見える、そんな場所に転移というか転生をして送られた様だ。

 近くの木に背中を預け、死角方向から不意打ちをされない様にしつつ、視線を一点に留めず死角を出来る限り埋めながら自身の状態を確認する。

 旅装として外套やナイフ等の装備と、長距離を歩く事を意識した皮製の防具を身につけており、腰には取り回しのしやすい片手剣を佩いている。

 どうやら、装備まで面倒を見てくれた様だ。

 さらに大型の野営用の装備類は容量を拡大された魔法の鞄に仕舞われ、大量の手記もあった。

 そこに記されているのは諸国を巡って得た様々な知見が記されていた。

 与えられた知識と、今自分が持っている物との摺り合わせを簡単にだが終わらせる。

 周囲を一度入念に確認し軽くストレッチをし、問題なく身体が動く事も確認出来た。

 森が途切れた先、少しいった所、田畑の先には何らかの文明的な営みが垣間見える。

 この様な場所に居ると云う事は、そこを目指せば良いのだろうか?

 新しい肉体は問題なく、装備も見繕えているのであれば、特に穿った考え方をせずに行動をした方が、良い結果に出会えるかと結論付けて歩き始める。


 森の境界、林と言って差し支えない程に木が疎らに生えた場所から抜け出ると、木の陰になって一部が隠されながら見えていた集落が確認できた。

 胸の辺りまで積まれた石の壁に囲われる形で存在する集落だ。

 そして、森の中から出ると遠くで戦闘が行われているのが見えた。

 身を屈め慎重に石壁に身を寄せる。まだ、距離が有る上に此方に意識が向かう様な状況ではないが念の為。

 石壁に隠れながらそっと様子を窺う。

 片方はこの集落の住民だろう、木の槍で攻撃と防御を行っていた。

 地面に対して槍を水平に構え穂先で敵を牽制する者と、勢いよくはたき攻撃する者が互い違いに配置されている。

 後方では馬上から指示を出す騎士と従者が居り、弓兵が弓を構えていた。

 それに相対しているのは、小柄な人型の動物。肌はくすんだ緑色で装備は貧弱な物だが、兎に角数が多い。

 愚直に槍に向かっては刺されたりはたかれたりしている。 

 戦闘は集落側に優勢であるかの様に見えるが、村人には疲労の色が濃かった。

 次から次へと森の中から現れる緑色の存在に休みなく対応し続けていたのだろう。

 それを示す様に、石の壁の内外に死体だと判断出来る物が散乱していた。

 さて、どうしたものか。

 地形と位置関係を視る。

 石壁は弧を描く形で配置されている為、現在私が居る位置から彼方あちらは見えづらいはず。

 このまま壁沿いに移動して出来る限り近づき戦闘に加勢するか。

 そうなると剣だけであの中に飛び込むのは危険だろう。

 集落側からは散発的ではあるが弓矢が射かけられているのが見えるからだ。

 そうなると、此方も距離を取って攻撃した方が良いだろう。

 観察を止め石壁に身を隠す。

 私は初めて魔法を発動させた。それは私のイメージ通りに発動する。

 それによる疲労感を感じ取り、どの程度魔法的な体力があるのかを測る。

 ちゃんとインターバルを考慮し負荷を掛けすぎない様にすれば問題ないだろう。

 掌の上で発現させた火の玉を消し、壁で身を隠しながら移動をする。

 壁の高さは胸の位置の為、それ程身を縮める事なく小走りで移動し、声を張り上げる。

「これより魔法で援護する!!」

 それに答えるのは馬上の騎士。

「助かる!

 皆の者、救援者だ!左方向から魔法が来るぞ!」

 緑の肌を持つ小型の人型の存在は此方の言葉が理解出来る様で、その言葉に反応し此方へと意識を巡らせる者がチラホラといた。

 間断なく突撃は敢行されているがその勢いが幾分削がれる。

 足を止め此方に視線を遣っている、私が敵と判断した動物達の中から一番近しい存在を選び、掌に発現させた火の玉を投げつける。

 イメージは圧縮した炎と爆発だ。

 投げつけた火の玉は対象にぶつかり大きな音を響かせ爆ぜる。

 此方を意識せずに突撃を行っていた個体も此方を意識した。

「押せーー!」

 足が止まった敵に向かって村人を突き進ませる騎士の号令が響いた。

 それまで、防御を意識し敵の牽制を行っていた村人も槍をはたき始める。

 頭上から振り下ろされる凶器、打ちそして時として貫く攻撃が行われていく。

 此方は此方で魔法を放ちつつ少しづつ距離を詰め圧力を掛けていく。

 たった一人とはいえ、相手が魔法の一発で突撃している脚を止める程度の存在であれば、有効と判断した行動だ。

 魔法を放ち続けながらにじり寄る。

 私に対応するのか突撃を続けるのか?その一瞬の迷いが戦いの趨勢を決めた。

 それまで村人達を押し込んでいた突撃の勢いは完全に失われ、敵が再び勢いを取り戻す事なく戦闘は継続し、そのまま終わりを迎えた。

 どうやら緑の肌の存在に撤退という言葉は存在していなかった様だ。

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