バンコクにて−ショート・ショート・ストーリー−

ネパールから、乗り継ぎでタイのバンコクへ。ネパール。多少ひどい目にあったが、トータルで見ていい国だった。


タイに昼間一旦入国して、深夜一時の福岡行きの飛行機で日本に帰る。もうちょっとで旅も終わりだ。 僕はバンコクで時間をつぶすために市内中心部の屋台でビールを飲んでいた。


ぼーっとしていると、突然、隣に女性が座ってきた。席はたくさん空いているのにわざわざ僕の隣に。なんだろう。 女性は、やがて、僕に接近してきて、寄り添うようにしてもたれかかってきた。手を廻してきて、僕の体に絡めてきた。


なんだこれは?


彼女の周りに仲間がいるんじゃないのか、抱きつかれながら見回した。いなさそうだが、どこかに隠れているのかもしれない。 僕はあからさまな観光客だから、何かの罠かもしれない。昏睡強盗とか、きいたことがある。気を緩めるな。彼女は飲み物に触っていないか、よく見とかないと。いや、念のため、この飲み物はもう飲むまい。あとはバンコクからの飛行機に乗れば、僕の旅はおしまい。多少ネパールでひどい目にあったが、無事終わる。ここで、気を抜くな。


でも、この人、仲間はいなくて、一人に見える。どういうことだろう。僕がただ単にモテモテなのかな、女性はさらに頬を摺り寄せてきた。なんだこれは。


もしやと思って、抱きついて絡みついてきた行動を否定するわけじゃなく、やんわりと、刺激しないようにしながら、女性に呼応して、女性の体を撫でまわすようにしながら、さりげなく、喉仏のあたりを触った。


ビンゴ!手応えあり! 喉仏がある!


女性と思わせて、この人は、男! 僕は喉仏を、気付いたぞと言わんばかりになでなでした。女性(っぽく見せていた人)は、あーあ、バレたか。という素振りで僕へ絡めていた腕を解いた。僕を見て、こいつはイケる!と思ったのか?女性の手を離れ、少し距離をおき、安全な状態にになった僕は、


僕は女性が好きなのよ、女性だったらまんざらでもなかったのに、ダメだよ、隠して接近しちゃ、という感じの、首を横に振って、やれやれといった顔をした。


女性(?)は、少し舌を出し、バレちゃしょうがないか、やれやれ、という、今でいう『てへぺろ』の、観念した顔をした。 なぜかその後、二人でニヤッと笑い合った。


二人にしか分からない、無言のちょっとした茶番を最後に、僕の海外旅行は終わった。

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