三つ巴の戦い
神戸での大学時代は、アルバイトに明け暮れていた。レストランで働いた後、皆で飲みに行ったり、すごく楽しかった。そんな楽しいアルバイト生活で、土曜の夜、皆で店長の家に泊まったときのこと。
僕は例によってべろべろになり、楽しく寝た。布団が人数分あるわけではなく、雑魚寝。 翌日、二日酔いで、楽しい酔いが残ったまま、起きて、さあ、僕は今日休みだから家に帰るかと思ってたところで、一人の女の子のアルバイトが、キッと僕を睨みつけている。
「ん?どうした?」
と聞くと、
「うるさい!変態!」
と。
「え?何?」
「覚えてないの?」
「覚えてない。」
「私の近くに来て、『乳、揉んだろか』って言って揉もうとしてきたでしょ!」
「え?」
「言った!」
記憶にないが、記憶もない。ただ、言えることは、僕は、関西弁を使わない。神戸に来て間もなく、関西のイントネーションがうつりそうになってたとき、ちょうどテレビの深夜番組で、嘉門達夫が、「関西人じゃない人の関西弁、いらつく!」みたいなことを言っていたのを聞いて、関西人はそう思っているのか。ならばうつらないようにしよう。ということで、神戸に来てかなりになるが、僕は完璧な標準語を使っていた。それを関西人からモノマネされるくらい。だから、『乳、揉んだろか』というはずはない。そうだ。記憶はないが、それは確かだ。
「言ってない!」
「言った!」
「言ってないって!」
「言ったって!」
「言った!」
「言ってない!」
言い合いをずっとしているところに、もう一人の女の子が私を庇う形で割って入ってきた。
「ちょっと、さっきから聞いてたらひどいやん!」
よし!よかった。援軍到来。僕の普段の行いの成果だ。
「そりゃ、そんなこと言いながら、揉んできたかもしれへんけど、雑魚寝だよ?そんなことに腹立ててたらキリがあらへんやん!」
ん!僕の味方ではあるけど、趣旨が違う!。 さらに女の子が畳みかける。
「そんなことで怒るんだったら、雑魚寝しなけりゃよかったんよ!」
「あ・・・いや、あの、僕、その前に・・・言ってない。」
ありがとうございますけど、ちょっとそこは言いたいことが違う!
「言った!」
「言ってない!」
「言ったっていいじゃない!」
「いや、言ってないって。」
「言った!」
「言ってない!」
「言ったっていいじゃない!」
「いや、言ってないって。」
「言った!」
「言ってない!」
「言ったっていいじゃない!」
「いや、だから言ってないって。」
日曜の朝、朝ご飯も食べず、ずっと不毛な三つ巴の戦いをしていた。店長が、ランチの準備があるからそろそろ行こうかと言うまで。
なんか、月日が経って、なんか、うーんと、言ったかも。揉もうとしたかもという気にもなる。でも、僕、関西弁使わへんしなあ・・・。
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