まんじゅう怖い からの 異世界転生

 俺は冴えない高校生だった。

 顔も中の下。

 成績も赤点をなんとか回避する日々。

 まぁどこにでもいる高校生。

 物語ならモブキャラってところか。


 そんな俺が、である。

 まさかまさかの異世界転生を果たした。


 え、そんな大量生産された話を聞きたくないって?


 まぁ、いいじゃないの。

 この物語はショートショートなんだから。

 立ち読み感覚でふらっと読んで行って頂戴よ。


 事の始まりは、俺が死んで目覚めたところから。


 え、なんで死んだのかって?

 そりゃ聞くだけ野暮ってもんだろ。

 まぁ、なんやかんやあって俺は死んだわけだが、ここからが面白い。


 死んだはずなのに目が覚めちまった。


「あれ、ここはどこだ?」

 目を開けると一面が真っ白い世界。

 なんにもありゃしない。

 おかしいと思ったよ。

 死んだら天国か、地獄に行くって聞いてたからね、こんな所に一人ポツンといるなんて、まさか皆んなで俺をドッキリにはめてるんじゃないかって疑った。まぁ、それもほんの一瞬。なんたって俺は、万年中の下だから。彼女もいなけりゃ、友達に誕生日を祝われるなんてこともなかった……いや、そもそも俺をかつぐ友達がいない。


 まぁ、そんなわけでここが死後の世界だと認識したところで、女神様登場。


 びっくりしたね。


 めちゃくちゃブスなんだもん。


 いや、もちろん俺が言えた義理じゃないよ。

 けどさ、こういった転生モノは大抵、美人か美少女の女神様が付き物でしょ。そんでもってその女神がポンコツだったり、プライド高かったりするもんでしょ。それが今の流行りでしょ。読者が求めてるのはそれでしょ?


 けど、俺の前に現れたのは泉ピーー子風の女。あえてピーー音入れたけどもうピン子って呼んじゃうよ。


 そんなピン子が表情変えずに俺に言ったんだ。

「アンタ……地獄に落ちな。」


「って、ピン子じゃなくて、細木かい!」

 まさかまさかのピン子の口から細木のワード!


 それに地獄ーー!いやいやいや、おかしいでしょ。なにがおかしいって、目の前のピン子白い割烹着かっぽうぎ着てるからね。なのに口からは細木って……ジーーーザス。


 ……じゃなかった。地獄行きなの俺?


 てか、そんな大切な話をピン子は尻を掻き毟りながら俺に告げた。


 ファァァーーッツッック!

 ふざけんな。


「おい、ピン子おかしいだろ!なんで俺が地獄行きなんだ!」


「はぁ?私の名前ピン子じゃないから。私にはシバタ・リエンって名前があるんだから」


……泉でも、細木でもなく柴田ァァァア!!


 俺は驚愕のあまりショック死しそうになった。が、なんとか足に力を入れて踏み止まり冷静さを取り戻す。そして冷静さを取り戻し思い出す。あ、俺もう死んでたんだ。


「わ、悪かったな……し……シバタ・リエン?」


「分かってくれればいいのよ」


 柴田はそう言って笑顔を見せる。

 ……普通に怖かった。

 それに言葉使いだけ、妙に色気付いているのに苛立ちを覚える。


「と、ところでなんで俺が地獄行きなんですか?」

 とりあえず、様子見だ。下手ヘタに柴田を刺激しないように下手したてに出て切り込む。



「この空間はね、の空間と言って死者を天国と地獄に振り分ける場所なの。」


 柴田は親切に今いる場所を教えてくれた。


 無の場所か。

 たしかにそれに値すると俺は思った。

 きっと一生走り続けても景色の変わらない、白い空間が終わりなく続く場所。

 正に「無」だ。


「あぁ、どうしてアナタが地獄行きなのかだったわね。私ね、自分で言うのも何だけど、意地悪なのよ。まぁ、アンタみたいな冴えない不男ぶおとこ……地獄かなーって。それだけよ。」


 な……


 俺は言葉が出なかった。


 なんて奴だ。顔だけじゃない、性格までブスなのかコイツは。俺は柴田を睨みつけてみたが、奴は我関われかんせずとプイッと視線を逸らす。


 イチイチ、ムカつく。



 けれど、俺はある秘策を思いついた。


「あーー、そっか。あんたは俺に意地悪したいのかーー」

 我ながら驚く程の棒読みだ。


 柴田は、「なによ」と俺の話に耳を傾けてきた。


「いや、俺は別に地獄は怖くないんだよ。」


「なによ、強がっちゃって。天国に行きたいからってそんなこと言っても無駄よ」


 それを聞いて俺はニヤリと笑う。


「いやいや、別に天国に行きたいわけでもないんだ。ただ、ちょっとホッとしてるだけ」


「どういうことよ!」

 柴田は俺の話す意図を読み取れないようで、苛立ちを見せる。


「いや、てっきりこんな空間にわざわざ呼ばれたもんだから、なんてめんど臭い事言われるのかなーと思って」


 俺は、ホッとしたよ。と、ワザとらしく胸を撫でた。


 それを聞いた柴田は不敵な笑みを浮かべる。


「あら、アナタ異世界が怖かったの。」


「あー、怖いとも。異世界って聞くだけでも怖い。だってそうだろう、知らない土地に、ただでさえコミュ障なこの俺がやっていけるとは思えない。それに俺は、異世界転生モノが嫌いでね。あー言った作品は読まない主義なんだ。」


 異世界転生怖い怖い。と、言ったところで、俺の体は粒子状の光に包まれた。


「な、なんだよこれ!」


「アナタを異世界に送ってあげる」


「や、やめてくれ。本当に異世界だけは怖いんだ。」俺は嫌だ嫌だ!と何度も叫び地団駄踏んだ。


 しかし、柴田は「あら、そんなに嫌だったの。精々そこでもがきなさい」と、意地の悪い顔をして消えてしまった。


 いや、俺がその場から消えたのだ。

 あの光の粒子に呑み込まれて。


「嫌だ嫌だ、異世界転生なんて!」

 俺は光に体が拘束されている間、ずっとそれを叫んだ。

 _____

 ザワザワ…ザワザワ…

 ガヤガヤ…ガヤガヤ……


 うん?

 明らかにさっきまでとの空気が変わった。

 俺は光で目が眩み音だけで周りの変化を察知した。


 数分経ってやっと目の調子が戻った。


 目を開けると俺は息を飲んだ。

 それもそうだ、さっきまで真っ白な『無』の空間とか言う場所にいたのに、今俺の目の前に広がっているのは見知らぬ国だったのだから。

 街並みは中世ヨーロッパ風で、通りを歩く人々の姿はまちまち、いわゆる亜人であったり獣人と言ったファンタジー世界の登場人物が闊歩かっぽしている。


「やったー!!異世界に転生したぞ!」

 俺は万歳をして喜ぶ。

 ……全ては計算通りだったのだ。

 意地の悪い柴田の事だ、俺が嫌がる事をするに違いないと踏んでいた俺はあえて異世界が怖いと話して異世界転生を果たすことに成功した。

 この世界で俺は万年中の下ライフを脱してみせる!セオリー通り進めばハーレムだって夢じゃない。


 するとどうだろう、喜んでいられたのも束の間。今まで目の前を歩いていた人々が静止する。全く動かないのだ。口をぽかーんと開けた者、追いかけっこをしていたのか追われる方が段差に躓き、今にもコケそうになりながら停止している。

 一言で言えば時間が止まっていた。


 俺はこの数時間で様々な経験をしてきたからさほど驚かない。


 程なくして、天から声が聞こえてきた。


「アナタ全然異世界を怖がってないじゃない!!私に嘘を付いたわね!」


 その声は悔しさを滲ませた柴田の声だった。


「本当にアンタが怖いのはなんなのよ!」

 天から響くその声は、正に神のそれだった。


 俺は天に向かって言った。


「チート能力が怖い」。



 ……お後がよろしいようで。

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