第14話 友人の好きな相手

「なるほどなるほど。カナちゃんにはずっと昔から好きな人が居るけど、中々切り出せないでいると?」


 盗み聞き……。

 もとい、話を偶然聞かせてもらったところ、鈴木には年上で幼なじみの想い人がいる。

 その想いを伝えたいがずっと伝える事が出来ず、である相澤にアドバイスを貰うべく今日ここに来たらしい。


 うーん、鈴木には悪いが完全に人選ミスだ。

 それもとびっきりの。


「うん……。もし気持ちを伝えたことがきっかけで距離を置かれちゃったら嫌だし。最近特に、就職が駄目でナイーブになってるから」


 分かる、とても分かる。それは本当に難しい話だ。

 好きな相手が、馴染み深い関係である幼馴染であるからこそ、今の関係が崩れる事により臆病になってしまう。

 俺にはその気持ちが痛いほど理解出来る。

 この案件、本来他人が土足で軽々しく関与したら駄目だと思うけど……。


「──大丈夫カナちゃん、先輩である私にまっかせっなさーい」


 しかしコチラは、自分の胸を手でポンっと叩きやたら乗り気のご様子。

 ものっすごく不安でしかならない。


「ふむふむー」


 相澤は腕を組み、目を閉じ何かを考えている。

 はたして、ストーカーである彼女にまともなアドバイスが出来るほど、恋愛のいろはが理解出来ているのだろうか?

 そもそもアドバイスになるのだろうか、ならないだろうなー……。


「聞いた話だと、カナちゃんの押しが弱いね」

「でも、嫌われたくないし……」

「大丈夫! 何事も攻略法さえ分かれば、活路は自ずと見いだせるよ」


 俺は猫だ。

 お口がチャック出来るタイプの、我慢強い猫だ。


 その言い方じゃ「ストーキングが俺を攻略する手段みたいだろ?」っとか。

「別に危機的状況でも無いし、活路はオーバーだろ?」なんてツッコミは入れない。


 相澤は突然立ち上がると、鈴木に向かいビシッっと指差した。

 そして……。


「かの有名な何とかって偉い人は言ったよ! 彼を知り、彼を知り尽くせば百戦殆うからずって!」


 っと得意げに意味不明な決め台詞を口にした。


 あちゃー、彼を知り尽くしちゃったか……。

 

 相澤の言いたかったであろう孫氏の兵法の一節は、節々に彼女のストーカーとしての本性を物語る。


「彼を知り尽くせば百戦危うからず……。うん、そうだね」


 いや、納得しちゃだめだろ!

 あれ、もしかしてストーカー増えないよな? ストーカーの誕生を目の当たりにしたとかじゃないよな?


 目の前の光景に不安を感じていると、


「こうはしてられないよ、カナちゃん。善は急げっていうし、早速情報収集からだよ!」

「はい師匠!!」


 っと、鈴木もシロルを床に置き勢いよく立ち上がった。

 そして意気投合した二人は、早速慌ただしく外へ飛び出していったのだ。


「……行ったか」


 俺は過ぎ去った嵐達を見送った。

 話題に上がっていた鈴木の想い人に、少しばかりの同情をして。


「何だか面白そうな事になったニャ」

「おい、まさか?」

「うにゃ、ちょうど暇してたからにゃ」


 シロルは立ち上がると、窓辺に近づき不敵な笑みを浮かべ嵐を見下ろした。

 どうやらこの猫、嵐が来ると外に出たがるタイプらしい……。


「まぁ気を付けて行って来るんだな。シロルが相澤についていくなら、俺は久しぶりに羽根を伸ばさせてもらうよ」

「何言ってるにゃ、あんさんも行くに決まってるにゃよ」


 世迷言を口にする口にするシロルに、俺は全力で不服そうな表情を浮かべた。

 だってそうだろ? 面倒事に巻き込まれるのが判っていて、何故足を運ばねばならないのだ。


「本来、澪に同行するのは俺っちじゃなくて正式な使い魔の仕事にゃよ? 断るっていうにゃら、あんさん達の関係も、つい楽しくしちゃうかもにゃよ?」

「くっ、脅迫は卑怯だろ……」


 シロルが言う「つい楽しくしちゃうかも」つまりそれは、俺の正体を相澤にバラすという事だろう。

 想像しただけでも背筋が凍る思いだ。

 そんな事されたら、ただで済む訳が無い。


「それにあの子の奇行には、あんさんにも深い関わりがあるにゃ。そんな子の気持ちを知ってて野放しにしてるんにゃから、監視ぐらいする責任はあると思うけどにゃ?」

「相澤が勝手にやってるだけで、それに奇行って……」


 でもコイツが言うように、もし俺が「君の気持ちには答えられない」っと彼女を拒絶してれば、どんな形であれ現状は変わっているはず。 

 その問題を先送りにしている以上、一切の責任が無いとは言いきれないのも事実か……。


「……はー分かった、行けば良いんだろ」

「あんさんの物分かりが良いところ、俺っちは嫌いじゃないにゃ」


 策略通りにことが進んだシロルは、二度目の不敵な笑みを浮かべ、窓の枠へと飛び移る。

 俺もスマホの電源を落とし隠すと「そりゃどうも」っと答え、彼の後を追うように窓の外へと飛び出し、相澤達を追ったのだった……。

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