第15話 自殺

 俺はシロルの意向の元、相澤達にバレないよう、彼女達の後を追う事となった。

 それにしても、まさか自分のストーカーの後を追う日が来るとは……。


 相澤と鈴木を遠目に跡を着いていくと、二十分程歩いた後、二人は一軒のアパートの階段を上り始めた。

 俺達も、隣の家の屋根から彼女達の行動を見守っているのだが──。


「それにしてもあの二人、まさか正面から会いに行くとは……」


 二階のアパートの一室、そのインターホンを押すと、部屋からは手入れされていない無精髭ぶしょうひげを生やした男が姿を現した。

 そして鈴木と二、三、会話をした後、二人を置き去りにドアが閉められる。

 

「どうやら、追い返されたようだにゃ」


 シロルが言うように、状況からして追い出されたのだろう。

 しかし、そんなことより……。


「あんさんどうしたにゃ? ぼーっして」

「い、いや、何でも無い。今、なにか見えた気がしたんだけど」


 そう、男の背中に半透明で黒い靄が見えた気が。

 でも相澤やシロルに変わった様子が見られない、ゾーオだと思ったが気のせいだろう。


「兄さん、澪達が動きだしたにゃ」


 相澤を先頭に、閉め出された二人が動き出す。

 歩きながら彼女は、身振り手振りで鈴木に何かを話かかけているようだ。

 それを聞き、鈴木は器用にも歩きながら何かをメモしてるけど。


「もしかして、相澤が鈴木にアドバイスでもしてるのか? 不安しかないな……」


 来た道を引き返す彼女達は、アパートの階段で宅配便の男性とすれ違う。

 そして宅配便の男は、先程の鈴木の想い人の部屋の前で止まった。


 俺は、先程の靄が心のどこかで気になっていたのだろう、無意識に再び現れた鈴木の想い人を目で追った。


「なぁシロル、やっぱり鈴木の想人の背中に、何かついてないか?」

「俺っちには何も見えないにゃよ?」


 シロルには見えてないってことは、やっぱりゾーオとは関係が無いのか。

 でも、俺だけにアレが見えてるなんておかしいよな。


「うーん、ここからじゃハッキリとは見えないか。よし、正体をハッキリさせてやる」

「兄さん、ミオはどうするにゃ!?」

 

 シロルの静止する声は聞こえたが、不安と好奇心が抑えきれない俺は、屋根伝いにアパートの後ろへと回り込んだ。


「こういう時は猫の体便利だな、高いところでも覗き放題だし、バレてもお咎めなし……。って何考えてんだ俺、覗きダメ、絶対!」


 今回は仕方がないとは言え、考えてみれば使い魔になって覗いてばかりだな。

 自分の行いを悔い改めねば。


「ん? テープで目貼りされてる。それになんだこの匂い。少し焦げ臭いような」


 ガラス越しには、ベタベタに貼られたテープとカーテンしか見えない。


 映画鑑賞やバーベキュー、なんて分けないよな?

 それにしてもその組み合わせ、何かテレビで見たような……。


「兄さん何してんねん。ミオのやつ、行って……」

「──ってもしかして!? さっき顔を出してからまだ然程時間は経ってない、急げば間に合う!!」


 俺は急ぎ、相澤の元へと飛んでいく。

 するとアパートを出て程ない場所で、相澤達を見つけた。

 そして、飛んでるのが鈴木にバレないよう降り立ち、背後から前を歩く相澤に飛びついた。


「えっ!? ビ、ビックリした……ノアちゃんどうしてここに?」


 相澤の肩に飛び乗った俺は、彼女の耳元で小声で話しかける。


『相澤、それどころじゃない。鈴木の想人の命が危険なんだ』

「えっ!?」


 そう、予想が間違っていなければ、一刻の猶予もない。なぜなら、


『練炭だ、練炭自殺しようとしてるんだよ!!』


 一瞬理解できなかったのだろう。

 しばらく間があったものの、相澤は鈴木の手を掴む。


「カ、カナちゃん、またアパートに戻るよ。急いで!!」

「澪ちゃん!?」


 突然の出来事に、鈴木は驚きの声を上げた。

 しかし有無を言わさず、相澤は彼女の手を引く。


 この時ばかりは、自分の予想が外れて欲しいと切に願うのであった……。


 

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