第13話 魔法少女の友人

「さあどうぞカナちゃん、入って入って」


 部屋の扉が開かれ、相澤が友人を招き入れる。

 俺はそんな、カナと呼ばれた少女に見覚えがあった。

 相澤が連れてきたのは、メガネが良く似合っている彼女と同じ高校一年、鈴木すずきかなえ

 野球部三人のマネージャー、その一人だったのだ。


「澪ちゃんのお家来るの久しぶりだね──あっ!?」


 鈴木は室内を覗くなり、急に驚きの声を上げ目を輝かせた。

 そして、


「猫ちゃんが二匹もいる!?」


 不本意ながら、愛らしい姿の俺らは、図らずとも乙女の標的になってしまったのだ。


 これは不味い、非常ーに不味い……。


 持ち上げて抱きしめられてみろ、足元にあるスマフォが丸見えだ。

 で、でもまぁ、発見されたとしてもパスワードもあるし、誰の物かまでは特定されないはず……。

 ──いや駄目だ! 相澤なら俺の物だと、まず気付く。

 それにパスワードはあるものの、彼女が時折見せる謎スキルを持って突破してしまうかもしれない。

 いや、きっとする。絶対する、そんな予感がする!


 玉のような汗が肉球を伝う。


 猫ってここは汗をかけるのな。って言ってる場合か! やめろ鈴木、そんな卑猥な手つきでこっちに向って来るな!?


「──にゃぁ~お」


 最後の抵抗、目を合わさないを実施していると、突然目の前に救世主が現れた。

 白い毛並みのあざとい鳴き声、そして千鳥足の酔いどれシロル先輩が、俺と鈴木の間に立ち塞がったのだ。


「えー何この子、凄く人懐っこくて可愛い!」


 シロルはしたり顔でコチラを振り向いた後、鈴木に抱き抱えられる。


 助かったシロル、本気でありがとう。


 例えそれが、ただ単にチヤホヤされただけだとしても、今日だけは素直に感謝する。ありがとう!!


 そして俺はそそくさと、その場で丸まって寝たフリを決め込んだ。

 流石に寝ているおれを起こしてまでも、抱き上げたりしないだろうと思った次第だ。


 案の定、シロルを抱き上げ満足している鈴木の目的はすり替わる。


「あ、これ。日輪先輩との写真?」

「う、うん」


 聞き耳を立てていると、どうやら机の上に残された一枚の写真立てに気付いたらしい。


 だからあの時言ったのに……。


「ふふっ、日輪先輩照れ屋さんっていってたもんね」

「そ、そうなの! 彼テレ屋さんで、並んで写真撮ってくれなくて……」


 相澤、いつ一緒に写真を撮ろうとか言ったよ。

 それにこれ、なーんか雲行きが怪しいぞ?


「あ、彼とか言っちゃって。羨ましいな、彼氏持ちは」

「えへ……」


 か、彼氏持ち!?

 なるほど、写真をわざと残した意味、なんとなく理解したぞ。


「……おい、誰と誰がいつ付き合ったって?」

「えへへへへ……」


 俺の小声の問いかけに、相澤から渇いた笑い声が響く。

 どうやら俺と自分が付き合ってるとか、鈴木に嘘付いてるらしい。


「あれ、気のせいかな。今誰かの声が聞こえなかった?」


 しまった、ツッコミが聞こえてしまった!?


 相澤と契約をしたせいなのか、猫の姿でも俺の言葉は一般人にも聞こえてしまうらしい。


 慌ててその場に伏せ、口をつむぐ。

 日輪だとバレないとしても、喋る猫が居るなんて知れ渡ったら大騒ぎになる。

 何とか、何とかしないと……。


「そ、そうだ、カナちゃん! それより相談したい事があるって言ってなかった!?」

「え? あ、うん。そのことなんだけど……」


 ふぅ、相澤の機転で何とか話は反れたようだ。

 

 鈴木は俺が居るとはつゆ知らず、自分の悩みを赤裸々に相澤に話し始めた。


 聞いては駄目なんだろうけど、ここにいる以上どうしても聞こえちゃうよな。

 なんて誰になく言い訳をしつつも、好奇心に抗えない俺は耳だけを立て、可愛い後輩の悩みに結局聞き耳を立ててしまうのだった。

 


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