第2話 学園の最大イベント

 夏休みが終わってクラスメイト達が戻ってくると、学園にも活気が戻る。9月からは、学園が開催するイベントのための準備が始まった。それが全校生徒が参加するハロウィンパーティーだ。

 こう言うイベントに一番乗り気だったのがレイス。彼はクラスメイトのほぼ全員に話しかけてパーティーを盛り上げようとしていた。


「なぁニック。お前理事長の息子なんだろ? 色々と話を通してくれよお。パーティーでやりたい事がたくさんあるんだよ」

「まだ9月なのに気が早いなあ」

「何言ってんだよ! このハロウィンパーティーは学園で一番のイベントなんだぞ! ここで最高に盛り上がらないでどうするんだよ!」

「そ、そう言うものなのか……」


 正直言って、僕はレイスのノリにちょっとついていけなかった。ハロウィンは今まで淋しい思いしかしていなかったからだ。エルトリアに住んでいた頃、ハロウィンの夜は街の住民が誰1人いなくなっていた。後で理由を聞いても、みんなハロウィンだからと言うだけ。

 だから、僕にとってのハロウィンと言うのは静かな夜と言うイメージだけだ。


 そう言う経緯もあって、賑やかに祝うのが本来のハロウィンだと言うのも最初は信じられなかった。子供がお菓子をもらうイベントだって言うのも、学園に来て初めて知ったくらいだ。住む世界が違うとはこう言う事を言うんだろうな。


 僕の認識でのハロウィンは、大人達が夜に一斉にどこかに出かけるイベントだった。どこに行くのかしつこく聞いていたら、人間はお呼びじゃないんだよってメイドのリリナがキレながらそう言ってたっけ。

 あれで怖くなって、二度とその質問は出来なかったなぁ……。


 とにかく、学園での僕はハロウィン初心者と言う事で、みんなの意見を素直に聞いて言われるままに動いてく係だ。屋台の申請を出したり、飾り付けのアイディアを出したり、必要な材料の買い出しに行ったり――。


 聞くところによると、学園のハロウィンパーティはマジですごいものらしい。全校生徒が仮装して参加して夜中中を楽しくすごすのだとか。話を聞いていたら、僕もすごく楽しみになってきた。そんな楽しいイベントに僕なんかが参加していいのかと戸惑うくらいだ。


 この準備にはレイスは当然として、ザッパもハンクもレイアもシーリアも、勿論他のクラスメイトのみんなも、リリまでもが授業そっちのけで盛り上がっている。まるでこのハロウィンパーティーのためにこの学園に入学したみたいだ。

 早く僕もこのノリに慣れて、みんなと一緒に楽しまないとだな。だって、それが学園生活をエンジョイするって事だもんね。


 そうして月日が過ぎて10月になり、気がつけば当日の31日になっていた。この日になるまでは毎日目の回るような忙しさで、各種準備やら手配やらで充実した日々を過ごす事が出来た。

 父は僕にこの経験をさせるために、この学園に転入させてくれたのかも知れない。


 クラスメイトのみんなとの楽しい宝石のような日々は過ぎ去り、今夜はついに本番だ。イベント自体は朝から始まっているものの、やっぱり日が暮れるまでは本番と言う気がしなかった。


 仮装も夜からすればいい事になっていたものの、朝からしている生徒もいた。レイスも何かのキャラのコスプレをしている。僕はそう言う情報には疎いから、詳しくは分からない。

 彼以外のクラスメイトはまだちゃんと制服だ。先生方も楽しく見守っている。


 丸一日のイベントだから、当然授業はない。イベントと言えばクラスで出し物をしたり、部活で出し物をしたり。生徒達のお手製の屋台も並び、講堂では演劇やらライブも開催されている。

 多分、全てのイベントを体験する事は出来ないだろう。それほどまでに多彩で賑やかなイベントだった。


 僕はレイスやザッパ、ハンクの同性組でこのイベントを楽しんでいた。途中でレイスが女子も入れようと言い出したのだけど、誰もその輪には加わらなかった。まぁ異性が入ると変に意識して素直に楽しめなかったりするし、同性同士が気が楽でいいんだけどね。


「ちぇ。男だけとかなぁ……」

「レイスは朝からコスプレとか張り切り過ぎなんだよ」

「いいよなニックは。理事長の息子なんだからモテまくりだろ」

「モテまくってたら、この中にいないだろ」


 僕はレイスの嫉妬を軽くかわす。そりゃ一緒に巡りたい女子がいないと言えば嘘になるけど、多分本当に彼女と2人きりとかになったら平常心を保てないだろう。それを考えたら、気のおける同性の友達の方が楽しめるってものだ。

 と、ここでハンクがくいっと慣れた手付きでメガネの位置を直した。


「折角だから楽しもうじゃないか。女子との出会いは、夜のパーティーのダンスの時にすればいい」

「そう言うのは当てがあるやつのせり……まさかハンク」

「俺だってまだOKはもらってないぞ……今はな」


 レイスのツッコミに対し、ハンクはにやり顔で返答する。ここで一触即発の空気が流れた。そんな気配を察したザッパが、その大柄な体で2人の肩を抱く。


「今日はハロウィンなんだぞ~。楽しもうぜ~」

「わーったよザッパ。喧嘩なんかしないよな、ハンク」

「勿論だ。だからこの手をどけてくれよ」

「あっはっはっは。ならいい」


 2人の話を聞いたザッパはすぐにその手を離して定位置についた。僕はそれを心地の良い光景だなと感じながら見守る。まぁ何だかんだ言って僕達は仲良しだ。

 そんな仲良し4人組は、各クラスの出し物などを雑談をしながら楽しんでいく。どのクラスも趣向を凝らしたクオリティーの高い出し物や展示をしていて、全く退屈する暇を与えてくれなかった。


 僕らのクラスはと言うと、レイスが張り切って主導して作った影絵芝居。テーマは当然ハロウィンだ。ハロウィンのイメージと影絵の雰囲気が見事にマッチして、お芝居は割と観覧者に好評だった。

 脚本はリリ、演者はレイスにザッパにレイアにシーリス。まぁ交代制なんだけど。ハンクはキャラデザなどを担当してくれた。僕はと言うと、何でも屋のヘルプだったな。適材適所ってやつだ。


 劇の盛況具合を見に行くと、そこには保険医のエリザ先生もいた。いつもセクシィな衣装を着ているちょっと危ない魅力的な先生だ。色んな噂が流れているけれど、いつもはぐらかされて真実は分からない。

 今日は胸元がざっくりと大胆に開いたミニスカ魔女のコスプレで、このイベントを楽しんでいた。


「やあニック君、これは君のアイディアかな?」

「いや、僕は裏方でした。企画はレイスで脚本はリリですよ」

「ほう、なるほどな。いや、上手く出来ているよ、感心した。ではな」


 先生は軽く挨拶をすると、ウィンクと投げキッスをして教室を出ていった。彼女が出ていくと、それについていく生徒もゾロゾロと。アレって親衛隊みたいなやつなのだろうか? 僕はその光景を、つい珍しいものを見るような目で見てしまう。


 ハロウィンパーティは昼の部と夜の部で構成されていて、夜の部のメインは生徒参加の野外のダンスだ。このダンスで一緒に踊った男女は結ばれるとか、そう言う定番の伝説もあったりするらしい。

 僕も誘われはしたけど、そう言うのが苦手なので断った。強制参加イベントじゃなくて良かったよ。


 夜の部では屋内のイベントは全て終わるため、結果的にみんな運動場にあふれる事になる。野外の屋台なども充実しているので退屈する事はなかった。野外ステージでパフォーマンスする生徒も多かったしね。

 そうそう、一応夜の部が始まる前に一旦全校生徒は集められる。そこで校長と副校長が挨拶をするんだ。それが終わったらまた解散して改めて夜の部が始まると言う流れだ。よく分からないシステムだけど、それが恒例らしい。

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