第23話 家政"夫"の涙

「やっぱここのオムライスが最高ね」


銀座で買って帰ったオムライスを和子、京介、康太の3人が食卓を囲み食べる。


「ねぇ京ちゃん、明日やってほしいことがあるの」

「なに?」

「コレ!」


 和子はテーブルの上に、先ほど買ってきた宝石店の小箱を差し出す。


「明日、寧々さんの誕生日なの。これをプレゼントとして渡してきてちょうだい。

 お誕生日おめでとうって言ってね!」

「なんで?」

「なんでって、だから寧々さんのたん……」

「なんで彼女が誕生日だからって俺が持っていくの?母さんが持っていけばいいだろ?」

「母さんからじゃ意味ないじゃない。

 京ちゃんからあげるから意味があるんじゃない。」

「俺からあげたくないからしないって言ってるの」

「なんで?」

「なんでって……、それは……俺は彼女に興味ない!以上!」


京介は立ち上がり、部屋へと帰って行った。

康太が家政夫としてこの家にやってきて、初めて2人の喧嘩を目の当たりにした。


「どうしてわかってくれないのかしらね……。

 伴侶を見つけてほしいだけなのに……。

 母さんがもし死んだら、あの子は1人寂しく生きていくことになるじゃない。

 そんなの悲しいから、だから言ってるのに……

 結婚して子どもを授かって、

 人並みの幸せを味わってほしいって思ってるのに……

 どうしていつもあの子はわかってくれないのかしら……」


 和子がポツリと言った。

 和子の思いはわかる。わかるからこそ、康太はツラいのだ。

 康太は本当に家族のように接してくれる和子のことも大好きだ。


  わかってる……

  京介さんが拒否をしたのは、僕に遠慮してるからだ。

  僕がいなければ、きっと京介さんは寧々さんに渡したはず。

  男の僕では出来ないことを、寧々さんなら出来るんだ……

  寧々さんと京介さんが結ばれれば、みんなが喜ぶのだ……

  僕が身を引けば……


  わかってる……

  わかってるけど、その結論にだけはなりたくない……

  和子様、ごめんなさい、ごめんなさい……



心の中で懺悔しつつ今日も家事を終えていく。



 全てを家事を終え、いつものように風呂に入り、出てくると今夜も京介が待っていた。


「康太」

抱きしめてきた京介の手を抑える

「京介さん、今夜はその……話をしませんか?」

「話し?」

「はい。聞きたいことがあるので。」

「いいよ。話をしよう。」


手を繋ぎ、京介のベッドへと腰掛けた。


「どうした?康太、何があった?」


京介は、優しく問う。

「高柳さまとのことです。」

「さっきの母さんの話か?断っただろ、お前が気にすることはないよ。」

「それだけじゃないんです。

 今日、高柳さまとエレベーターでお会いしました。」

「それで?」

「高柳様に言われました、来週から来てほしいと。それは京介様の許可を得ていると」

「あ、あのこと?聞いたんだ、そっか。俺から今夜にでも話そうと思ってたんだけどな」


悪びれた様子もなく答える京介に少しムッとした感じで康太は質問する


「京介さんは何を考えてるんですか?

 彼女は僕に何かを聞きたいと言ってます。

 それがどう言う内容で、どういう意味かわかって僕を行かせるんですか?

 京介さんは僕がツライ思いをするとは思わないんですか?

 僕なしでも平気なんですか?」


「ちょっとちょっと待って、どういうって、え?

 康太、ツライのか?どうして、どうして?ん?なんで?

 ちゃんと話してくれないとわからないよ」


康太は大きくため息をついて再び話し始める


「高柳様は京介さんのお見合いの相手ですよね?

 少なくとも和子様は京介さんと一緒になって欲しいと思われてます。

 そしてその気持ちは高柳様もご存知かと思います。

 その上で、僕と話しをしたい教わりたいと言うのは、それは京介さんのことを聞きたいからでしょう?

 京介さんと一緒になるためのアドバイスを僕に欲しいと言ってきてるんでしょう?

 そんなのは、僕からしたら酷なことだと、何故わからないんですか?

 僕には辛いことなのに、それなのに高柳様からの提案を京介さんは何故うけたのですか?


 京介さんは僕に、高柳様と一緒になる手伝いをしろというのですか?

 僕をなんだと思ってるんですか!

 僕を見捨てるつもりなのですか?」



黙って聞いていた京介の目が厳しい目に変わった


「… 康太、おまえそれ本気で言っているのか?

 こんなにもお前を愛してると言っている俺が、

 一瞬でもお前の姿が見えない時間が嫌なこの俺が、

 そんなことをさせる為にお前を行かせる許可を出したと本気で思っているのか?

 

 そんな訳分からないことを許可したすぐあとに、昼間、お前を抱いたと思っているのか?

 俺の愛をお前こそなんだと思っているんだ?

 薄っぺらい愛情とでも思っていたのか?

 性欲を満たすためだけに抱いているとでも思っていたのか?

 

 お前は、お前の方こそ俺のことを分かっていない…

 …………


 そんなやつを今夜抱こうとは思わないよ。

 自分の部屋に帰れ。

 今夜は、もう抱かない……

 お前の顔を見たくない……


 俺はもう一度風呂に入って寝る

 お前も自分の部屋に帰れ!わかったな」



京介は立ち上がり浴室へ入っていった。

初めて、初めて康太に対して怒った京介。

その態度で康太は何も言えなくなっていた。


 どうしよう、どうしよう、京介さんを怒らせた

 なんでだ?なんでだ?何がダメなんだ?

 僕は何を間違えたんだ?!


考えても京介の考えがわからない康太は自分の部屋に戻る。


そしてただただ、怒られてしまったことへの後悔で涙が溢れる。


  もう僕たちは終わってしまうのだろうか……



不安を抱えながらベッドに横たわって泣いていた。



一方の京介は、シャワーを浴びながら考える…


  康太は何も分かっていない!

  俺のことも!俺の気持ちも!そして、信じてもない!

  俺をなんだと思ってるんだ……チクショー!チクショー!


シャワーを浴びながら、一生懸命怒りを鎮めようとする京介なのでした。




 翌日、いつも通り起こしに康太は京介の部屋に入る。すると京介はすでに起きていて

「起きてるからもういい、仕事しろ」

と康太の顔を見ることもなく答える


「あの京介さん、あの…」


 話しかけようとすると京介は手を挙げ、それ以上何も言うな!と言わんばかりに手のひらを向けた…


 康太は何も言わずに部屋を出て行った。



 和子と京介と3人で食卓を囲み、朝食を食べる。


「京ちゃんあのねぇ……」

「母さん、高柳さんへのプレゼントどこ?あとから持っていくよ」


「え……?」

康太も驚く


「え?本当?うれしい!これよコレ!

 確か今日も10時には学校に行くと言ってたからそれまでに渡したら?研究で忙しいのか学校行くと何時に帰れるかわからないらしいのよ。」

「わかった、9時すぎには持ってくよ」


 いつも通りの日常が始まる。

 ただいつもと違うのは、京介は一切康太の顔を見ない、話もしない、そして、


 寧々に京介から会いに行くと言ったのだった……。

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