第4話 家政"夫"と強引な海斗

 突然の来訪者、落合海斗がやってきた。

 部屋をノックし京介と海斗のお茶菓子をもって入る。すると海斗は、すかさず話しかける


「家政夫さん!

 毎日うちの京介がお世話になってます!

 こいつの面倒は大変でしょう。わがままだし、自分勝手だし、口下手だし。

 コイツだけでも大変だろうに、和子さんまで。本当に感謝感謝です。」


「いえいえそんな……

 京介様も和子様も本当に良い方で僕はここでお世話になり幸せを感じてます」


「いやーほんとちゃんとした人だなぁ。僕も気に入った!

 ということで、日頃お世話になっている感謝の気持ちを込めてなにかプレゼントを贈りたいのですが欲しいものはありませんか?」


「はい?」


突然の海斗の申し出に戸惑う康太。


「プレゼントですよ、プレゼント。ほら欲しいものとかないです?

 何でもいいですよ、コイツ金はたくさんあるから」

「コイツって俺かい!」


「いやいやプレゼントだなんて。

 私はただ普通に家政夫としての仕事をこなしているだけですので。」


「そんな遠慮せずに。ほら、京介からもなんか言えよ」

「海斗、お前なぁ。家政夫さんが戸惑ってるじゃ無いか。

 すみません、こいつこんな勝手な奴なんですよ。」


「俺はだな、気が利かないお前に変わって気を利かせてるんだろ!

 ほらこんな提案なんて俺がしなけりゃお前にはこんな発想できないだろ?」

「確かに。」


海斗の言い方は妙に説得力がある。


「ということでよし、決めた!

 明日はおまえ、1日仕事休んで家政夫さんの休日につきあえ!

 買い物したり映画みたり……なんでも家政夫さんの望みをかなえてやれ。

 あ、忘れずに外食もしてこいよ!

 せっかく家政夫さんを楽しませるのに、帰るなり夕飯作るとかそんな可哀想なことするなよな。

 明日は家政夫さんを労う一日としろ!いいな?」


海斗の言葉で目を丸くする康太


「え?え?いやいやいやいや……私は大丈夫ですのでお気遣いなく……」


「いいんですよ!こういうことでもないと、こいつ外の空気吸わないでしょ?家政夫さんが来てから一度でも外に出ました?出てないでしょう。たまには外に連れ出して外の空気を吸わせてやってください。それで楽して外食してください!ね?これは家政夫さんのためでもあるけど、京介のためにもなるんです」


 そういうと康太に向かってウインクをしてくる海斗。

京介も話し始める


「家政夫さん、いいですよ。

 明日は母が外出したら一日、一緒に外に出ましょう。

 何がしたいか、欲しいものは何か、何を食べたいか、何でもいいので明日したいことを考えといてください。よろしくお願いします」



 京介は立ち上がり、康太に頭を下げる。

 慌てて康太も京介に向かい頭を下げる。


 その光景をニヤニヤしながらみる海斗なのでした。




「明日の夕飯はテイクアウトだから」


海斗が帰った夜、京介は和子と夕食を食べながら話す。


「テイクアウト?」

和子が聞き返す


「明日は家政夫さんと買い物に出ることにしたから作る時間までには帰らないと思うし、たまには楽させてあげよう。母さんは嫌なら外食して帰って」


目を丸くする和子。でもすぐに笑顔になり


「いいわねー、京ちゃん夜も外食しておいでよ。私のことは気にしないでいいわお友達と食べて帰るから」


 どうやら和子は京介が自分から外に出るというのが嬉しい様子だ。

 食後の片付けをしている康太のもとへ和子がきた。


「明日は京ちゃんとどこで何をする予定なの?」

「なんだかすみません、出かけることになり……。今日の話だと買い物に出る感じかと……」


 康太は申し訳なさそうに答える。和子は康太の手をとり


「買い物?いいわね。服?それとも雑貨屋さんかしら。あぁーいいわねー。どんな物を買うのかしら。明後日にでも教えてね。

 あの子が買い物に行くなんてどれくらいぶりかしら。滅多にないことなのよ。せっかくだからしっかり連れ回してね!

 私ね、あなたと京ちゃんが兄弟のように仲良くなって欲しいなーとほんっとに思っているのよ、あなたにとっての家族になれたらなって思ってるのよ」


和子はキラキラと目を輝かせながら喜んでくれている。

康太は、自分の物を買ってもらいに行くのだとはとてもでは無いが言えなかった。



 翌日、康太は朝から落ち着かない。

 それでもいつも通りのスケジュールをこなしていく。そしていつも通りに和子は外出準備をし出かけていった。

 京介が仕事部屋から出てきた


「そろそろ行こうか?」


そう言って出てきた京介はいつものラフなポロシャツ姿ではなく、全身ビシッとモード系できめていた。その姿は女性ではない康太でも見惚れてしまうほどカッコいい姿だった。


ぼーっと見惚れていると


「家政夫さん?いける?」


と、康太の目の前に京介の顔が近づいた。康太は心臓の鼓動が早まるのを感じた。


「あ……はい。大丈夫です」


  なんだこの感情は……



 京介の誘導で高級車の助手席に乗させてもらった康太。


「こんなすごい車の助手席に僕が乗ってもいいのでしょうか」

「今日はあなたが主役ですよ。さ、家政夫さん、なにが欲しいか考えました?」


顔をまたしても覗き込まれ、心臓がドキドキしてしまう康太。


「すみません……私は別になにも……」


 康太は海斗に言われてからずっと考えたのだが、自分がプレゼントをもらうなどと考えてもない提案に何を要望したらいいのか見当もつかなかったのだ。


「困ったなー……」


小さな声でぽつりと京介がつぶやいた。


 あぁ……僕がちゃんと言えないばかりに……


すると京介の携帯が鳴る。LINEのようだ。京介はそれを読むなりサングラスをかけ


「よし、じゃ俺が思うところに行くね」


 車は走り始めた。

 康太は京介の運転している姿をみる。どこをどう見ても様になっている。男らしく、堂々と運転している。サングラスをした姿はまたさらに3割ほどカッコよくなって見える。康太は、胸は中が女子高生かのように踊り、キュンキュンなっているのを感じていた。

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