第5話 家政"夫"との外出

「ついたよ、行こうか」


京介の車がとまった場所は大型の家電量販店。慌てて康太も降りる。

中に入ると50代くらいの男性が声をかけてきた。


「若林様ですね?お待ちしておりました。私、店長の小野と申します。本日は……」


どうやら店長が自ら挨拶をしてきたのだが京介はそんなのはお構いなし。


「掃除機はどこ?」

「掃除機ですか?はい、こちらです!」

慌てて店長が案内をする。

「掃除機?」


 フフ…

 康太の反応を見て微かに京介がわらった。


 掃除機売り場につくなり京介は康太のほうをむき


「"康太さん"、あなたにとって使いやすいやつはどんなタイプですか?どれがお気に入りですか?」


と聞いてきた。

 店長の小野は、康太から発する言葉を待っている。

 康太は、突然の電器屋で、突然の掃除機の話題、さらに突然の京介からの"康太さん"という名前呼びに頭がパニック。もう訳がわからない。


  "康太さん"、康太さんって言われたよな、俺いま。

  京介様が俺の名前を呼んだんだよな?気のせいか?


 戸惑っている康太に向かって、店長が掃除機のプレゼンを始めた。

 店長の話をききながら、ふと康太は京介が気になり何度も目をやる。京介は、康太のことなど関係ないかの様に椅子に座り携帯をみていた。

 1人の男が椅子に座り携帯をいじっている。

 たったそれだけなのに周りにいる女性客や女性店員は京介に目が釘付けなのでした。

 女性たちに注目されているのを感じ、康太の心の中に今度はモヤモヤとした感情が生まれていた。それを振り払うかの様に、店長の話に耳を傾けた。


 店長のプレゼンを聴き終えた康太は京介を見る。視線を感じた京介は康太の方を向き


「決めた?」


と一言。

 そんなたった一言に、自分を見てきたその表情に、またしてもドキドキしまう康太。


「あ、はいこれが便利そうで……」

「じゃそれ3つ。あと最新式のロボット掃除機を5個ね」

「ロボット掃除機?5個?それにこれを3個?え?え?」


康太は聞き直します。


「あの家の掃除は、掃除機一つじゃ使いにくいだろ?

 だから気に入ったのは3個でいいんだよ。

 で、ロボット掃除機は『あっちこっちにロボット掃除機あったら掃除機かける時間減って "康太さん" が楽になるから』って海斗が」


 そういって京介は自分のスマホを康太に向けてきた。

 どうやら車に乗った時に届いたメールは海斗からだった。

 そこには、


『家政夫さんが楽になるもの』


と題して掃除機のことが書いてあった。

 康太はクスッと笑い、京介からの好意を受けることにした。

 気に入った掃除機とロボット掃除機を買い、2人は今度はおもちゃ売り場へ。


「康太さん、ゲームとかってします?」


京介が聞いてきた。


「はい、シューティングゲームが好きで……」

「へー、シューティングゲーム?イメージないなぁ。どれ持ってるの?どれやってるの?」


 京介にきかれ康太は自分が普段遊んでいるゲームを教える。

 実は康太はゲームが好きで毎日仕事終わりに部屋に戻ったらほんの少しの時間でもゲームをしていた。休みの日も一日中部屋でゲームをしていたのだ。

 夢中になって普段プレイしているゲームのことを話す康太に優しい視線で京介は見ていた。

 はっと我にかえりだまる康太。


「すみません、ベラベラと喋ってしまって」

「知らなかったなぁ、そんなにゲームが好きだなんて。

 そっかぁ、部屋に入ったら出てこなかったのはこういうゲームをやってたんだな。休みの日も、家にいるのかもわからないくらい、存在感ないなー、生活音しないなーと思ってたら、部屋でゲームを一日中やってたなんて。

 よし、それじゃ……」


 そう言って京介は康太と同じゲーム機一式と、さらに店員のオススメするシューティングゲームを2人分購入するのでした。


「え?こんなに?」

「俺はね、ゲームとかこういうの全く知らなくて、友達も昔からいないからさ誰かとゲームするなんてことなかったんだよね。

 だからゲームの仕方も誰からも教わるなんてこともなかった。

 興味が無いわけじゃないけど、今更って思ってて手を出さずにいたんだ。

 でもこれからは、康太さんに教われるからさ。教えてくれるでしょ?一緒にやってくれるよね?

 そしたらこんな俺でもゲームできるかもしれない。

 これで息抜きも出来るかもしれない。悪いけど康太さん、いや康太先生!俺にゲームを教えてください!お願いします」



「なんですかそれ。アッハッハ。いいですよー。しっかり教えますからじゃ、ゲームを勉強してくださいね」

「はい!先生!」


  楽しいな。京介様といるととても楽しい。

  一緒にゲーム?そんなこと、僕も経験ないよ。

  なんだか本当に友達のような、

  兄弟のような関係になれるかもしれない。

  僕にも家族が……?

  こんなに親切にしてもらって、バチが当たらないといいな。

  あー、なんだこの嬉しい気持ちは!



 嬉しい気持ちいっぱいの康太だが、一瞬で我にかえることになる。

 それは家電量販店を歩いていて大きな鏡の前に通りかかった時です。


 全身ブランド服を身にまといサマになっている京介の横にいる、数年前に量販店で購入した服をみにまとっている安っぽい自分を見てしまったからだ。


  僕は何を考えたんだ?

  なに夢みたいなことを考えた?

  京介様と友達?兄弟のような関係?

  なれるわけないだろ。

  どう見たって釣り合っていない…

  こんな俺が横にいていいのか?いいわけない。

  康太よ、夢を見るな!

  お前は京介様の家政夫なだけだ!


身の程をわきまえようと心に思う康太なのでした。

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