第3話 家政"夫"はスーパーマン?

 京介の家の空き部屋に康太が入居して、早3ヶ月が経った。


「京介様、おはようございます」


 朝は必ず決まった時間に起こしにきて、隅々まできちんとアイロンのかかった服がすでに用意されており、朝食も京介の好みの味を日替わりで用意されている。


「ありがとう」

寡黙な京介はというと、この3ヶ月『ありがとう』以外はほぼ言わない。


 康太の1日は忙しい。

 朝5時には起き、朝食の準備を2人分つくる。和子は和食中心、京介は軽いものが好きなので洋食だ。ありがたいことは、2人ともいる時は10階で一緒に食べてくれること。片付けは10階だけでよい。だがそれ以外にも忙しい。


 6時30分には和子を起こし、6時45分に京介を起こす。


 2人の朝食が終わるころには両部屋のシーツ交換、ベッドメイクも終え、全ての洗濯へ。そして家中の掃除を始める。


 9時30分には和子の次の活動が始まる。和子は週に3回お稽古。週に5回スポーツジム。週に2回エステへと毎日どこかしらにハシゴして行くのだ。

 さらに友人も多いのでランチはいつもどこかで外食。

 そのスケジュール管理も康太に任されていた。一緒にいく友人に合わせ店やハイヤーの手配などをするのである。

 

 その間にも京介の10時の休憩に合わせお茶とお菓子を用意。

 あっという間に気づくと昼が来る。


 京介の昼食の準備をし、食卓で食べていただく。

 すると毎日京介の会社の男性が1階エントランスまでくる。

 康太はその男性から書類を受け取り、京介に届けると京介はすぐさま仕事部屋へ。そのまま彼は夕刻まで出てこない。


 その間に康太は午後は買い物。

 帰宅するなり京介のおやつタイム。そして休むことなく夕食準備へとなる。


 アイロン掛けだけでも大変だ。シーツからハンカチの一枚一枚全てにアイロン掛けをする。

 そしてクローゼットにしまうついでに、京介が翌日着るといいであろう服をセットして1番手前のハンガーに掛けておく。こうすることで、京介が朝、何を着たらいいのかを考えなくて済む様にしてあげるのだ。


 康太の仕事はまだ終わらない。

 和子が帰宅し、京介と2人で夕飯を食べている間に、9階と10階の風呂の準備を。

 2人の夕食が終われば、今度は翌日朝食の準備となる。これが終わるとやっと康太の仕事時間はおわりだ。


 康太は毎日21時過ぎに自室へと戻れていた。

 もともと空き部屋だったこの部屋は、和子の計らいで、この3ヶ月で生活に必要なものを全て準備された。おかげで自室に戻ってから京介との共用部分へ立ち入ることなく朝を迎えれるようになっていた。


 その配慮は京介からみても、共同生活をしているという感覚を全く感じないほどに配慮されており、一緒の家に誰かがいるはずだが、今まで通り一人で生活をしているのと何ら変わらない感覚なのである。


 むしろ京介からすると、康太の家政夫としての仕事ぶりのおかげで、服装から何から煩わしいと思える事が無くなった。その分、自分一人の時間を有効に使える様になっていた。


 康太との共同生活は京介にとって、とても心地よかった。




 いつも通り仕事をする京介。

 いつも通り10時のおやつの準備をする康太。


 そんな日常を過ごしていると、家の呼び鈴が鳴った。1階玄関ではなく、ここ10階の呼び鈴が鳴ったのは、康太が住み込みの生活をして初めてのことだった。


 玄関を開けるとそこには、笑顔が素敵な、しかし服装は普通のジャージを着た男性が立っていた……


  え?この人は誰だ?ジャージ?この家への客人なのか?

  ん?体育教師かなんかなんだろうか


「はじめまして、こんにちは。きみが新しい家政夫さんですね?京介いる?」

「少々お待ちくださいませ。失礼ですがお名前は」

「僕は落合海斗(おちあいかいと)と申します」


 きちんとしたあいさつをされるこの男性、年は京介くらいだろうか。

康太は、京介へ伝えると


「彼は友人なので今後いつでも通してください」


と。『ありがとう』以外の言葉を久々に聞いた。

 海斗を仕事部屋まで案内し、キッチンに戻り2人分のお茶の準備をする。



 海斗は京介の部屋に入るなり先程までの態度とは打って変わって男らしく、ソファへ掛ける。


「あれが噂の新しい家政夫?どうよ」

「あぁ。初めて男性の家政夫ってことで、どうなるかと思ったけど、仕事は早く丁寧だし、母とも仲良くしてくれるし。

 何より俺の邪魔なことは一切しないから俺のストレスが軽減されたよ」


 そう。

 京介は考えた。

 今までの家政婦は日々どこかしらに存在感があって、色々と尋ねられたりもして、仕事の手を止められることも多かった。

しかし康太に変わってからというもの自分の欲しい物はさりげなく近くに置いてくれたり、何かを探して困るということも無くなっていた。


 なかでもすごいのは飲み物だ。喉が渇いたというタイミングに飲み物が届く。今日はなんとなく珈琲よりもお茶がと思うタイミングでお茶が出てくる。求めなくても相手の欲しいものを出してくるそれが彼、康太なのである。


「ふーん……そんなに助かってるなら感謝しないとな!」


京介が考えている様子を見て、海斗は意味ありげに言ったのだった。

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