第14話 弥終の社

「どうしました? のぞみさん」


「あ、いえ……。 その、私がナギちゃんだったのです」


「貴女が?」


「はい。私が他人の人生の一端をトレースするように、ナギちゃんは私をホストとしていたようなのです。ただナギちゃんは私と自我を併存できない。他の候補者は他人の自我と併存できるようでした。それで異世界を観測するだけではなく、ホストの意識に介入もできるのだと。そして世界の運命を改変することによって破滅に抗っている。その候補者の少女たちのことを〈弥終いやはてともがら〉と言っていました。それと霊理力という言葉も聞きました。幽霊の霊にことわりの理と書いて霊理力です。それとΦファージというのも一体どういうものなのか私には分かりませんでした」


 日下部くさかべ先生は希の話を聞くと、少し複雑そうな顔をしてゆっくりと口を開いた。


「なるほど……。 普通心理カウンセリングでは症状を過去のトラウマと結びつけて取り扱うのですが、希さんの場合はそういうわけでもありません。統合失調症様の症状とも異なります。自分で言うのも何ですが、これは難しいケースです」


「先生、私は自分の意識を自己の内側に向けることによって精神世界を知覚することができます。それってもしかして自分の意思でレム睡眠状態を誘発させているということでしょうか?」


「その可能性は高いと思いますが、はっきりとは言えません」


「私はなぜ自分にこのようなことが起きるか知りたいのです。もしよければ、私を先生の研究対象にしていただけませんか?」


 日下部先生は少しの間考え込んでいた。


「……そうですね。でもすぐには決められません。すみません。後日こちらから連絡いたします。今日はここまでにしましょう」


 希は先生を困らせてしまうほどの無理を言っている。その自覚はあった。だけど自分が何を体験しているのかを解明したいと思った。ナギの記憶は何処からやってきたのか。希にはこれが自分の過去の記憶を繋ぎ合わせて生み出したただの妄想とも思えなかった。ナギだけじゃなく、今まで希が精神世界で経験してきたことは、現実での経験を遥かに上回っている。希はこれが単なる記憶の再構築ではないと信じていた。


「こちらこそ変なお願いをしてしまってすみません。よろしくお願いします」

 

 希はセッションを終えると先生に深く頭を下げて部屋を出た。

 そして大学で講義を受けるため、日下部先生のクリニックをあとにした。

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