第13話 セッション再開

のぞみさん! 聞こえていますか?」


 日下部くさかべ先生の透き通った声がすぐそばで聞こえた。

 テレビのチャンネルを切り替えたかのように、急に視界が切り替わった。


「日下部先生……?」 


 希はパーソナルチェアから上半身を起こした。


「大丈夫でしょうか? 身動きしなくなったので心配しました。しばらく様子をみて安静にしておきましょう」


「いえ、大丈夫です。それよりも先生、先程はどこまで私の言葉を聞き取れましたか?」


「言葉、ですか?」


「ええ、先生に精神世界に誘導されて、状況を説明していたと思うのですけれど」


「希さん、貴女はここで意識を失っていたのですよ。もちろん何も喋っていません。私が声を掛けても無反応でした」


「そうですか。ではグリッドを破壊したことも……」


「グリッド……?」

 

 たしかに希は先生の指先で眉間を触れられてあっちの世界に落ちた記憶がある。

 それも含めて幻覚だったのかと希は自信をなくした。


「先生、もう気分も落ち着きました。私は大丈夫です。もしお時間があるようでしたら、延長をお願いしてもよろしいですか?」


「ええ、次まで時間は空いていますので大丈夫ですが、何かあったのですね。でもくれぐれも無理はなさらないように」

 

 希は再びパーソナルチェアに座りなおし姿勢をただした。


「ではお聞かせください」

 

 日下部先生はデスクに戻ると、セッションを再開させる。


「先生、先程セッションが終わったあとですが、先生は私の名前を呼ぶと同時に目の前にきて「失礼します」と言い人差し指の先で私の眉間に触れました。その瞬間に私の意識は精神世界に落ちたようです。私はその時も、間近にいる先生の声を聞き取ることができました。それで先生に状況を説明しながら落ちていましたが、どうやらある世界に降り立ったら先生との会話も途切れてしまったようでした」


「私と会話をしながら精神世界に潜っていたと。それで今度はどのような世界に降り立ったのですか?」


「いつの時代かわからなかったのですが、大きな神社のような建物の中にいて、私は『ナギ』という名の十代くらいの少女になっていました。私の他にも同じ年代の七人の少女がいて、みんな謡女うための最終候補者達でした。その中で私の隣にいた一人は、ナギちゃんの姉の『セツナ』でした。彼女達はΦファージの脅威による破滅から世界を救おうとしていました。そのために時空を超えて他人の意識に潜り込み……」


 希はそこまで言いかけてふと黙りこんだ。


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