第34話 ノゾミの危機

「ではナギ、お話のつづきを。そのとき貴女あなたは希さんとの意識の共有はできていましたか?」


「はい、共有はできていました。私は日下部くさかべに『私は神劔みつるぎのぞみです』と答えました。信じたかどうか相手の表情からははわかりませんでした」


「そのときの日下部は、あきらかに私が貴女と希さんを結び付けた時の日下部とは違いますね。日下部本来の意識とも違うようです。何者でしょうか? ホモ・ファージが異世界に干渉する力を持ったのだとしたら大変なことになります。希さんの存在が知られたら、わたくしたちの世界のように破滅に向かう危険がでてきます」


「ナギ、そのあとはどうしましたか?」


「私は希さんの記憶に従い大学へ行きました。講義開始まで時間があったので通信器具で希さんの世界のことを調べました。大昔のトバ火山の破局噴火により、ホモ・サピエンスも含め、ほとんどの人類が死滅したようです。しかし、ホモ・サピエンスは生き残り、その影響で遺伝的特徴が均質になったという記録がありました。ホモ・ファージについては何一つわからなくて…… まだ存在していないか、誰も知らないのかもしれません」


「そうですか。もし貴女と希さんがつながったことで、希さんの世界がホモ・ファージの攻撃を受ける結果になることはできれば避けたいですね。それでそのあとは?」


「そのあと、講義室に行くと下道したみち那生なおという男性が話しかけてきました。挨拶を交わした後、希さんの意識が半分眠った状態なりましたが、講義が終わるまで座って聞いていました。講義のあと希さんは病院に行く予定だったので、私が希さんの意識を半分ほどを操作してなんとか病院まで行きました」


「それは、睡眠障害を治療するためですか?」


「それもありました。しかしその世界の希さんの症状はとてもひどいものでした。彼女は精神科、睡眠科、循環器科、消化器科、血液内科、脳外科、脳神経外科という多くの診療科目で検査と治療を行っています。それに薬による影響で肝臓が悪化していて、貧血の症状もひどくなり、身体にかなり負担がかかっています。脳の発作による激痛も頻繁に起こるみたいです。そして病院の医師から、彼女の治療に対してこれ以上できることがなにもないと聞かされました。その医師からは、別の病院の紹介状を書くと言われ…… 希さんの体は悪くなるばかりのようです」


 希の視界には考えむように虚空こくうを見つめるユナの姿が見えた。

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