第33話 ナギの報告

 本殿の中には白い巫女装束を身にまとった美しいユナ様がいた。


「さぁ、ユナ様のところへお行きなさい」

 

 ミコト先生に軽く背中を押されたナギは、小走りでユナ様のそばへ行く。


「お上がりなさい、ナギ」

 

 ナギは草履ぞうりを脱いで本殿に上がった。

 ユナ様はナギの右手をそっとつかむ。


「こちらへ」

 

 ナギの手を引いて奥へと招き入れる。

 そこから本殿を抜け、外廊下に出て離れへと向かう。

 離れには謡女うため以外は近付くことが禁じられている。離れへ近づくにつれ物凄い霊理力を感じて少し背筋が凍った。離れに着くと本殿と同じ漆黒の部屋に入った。


「戸をしっかりと閉めて」


 ユナ様はそう言いながら灯籠とうろうを灯し、部屋の中央に正座をした


「ナギ、こちらへ。私は貴女に大事な話があります」

 

 ナギはユナ様の正面に正座をした。


「はい、ユナ様」


「貴女は今日、演習で初めて長時間の意識の"共有維持"に成功しましたね」


「はい」


「その様子を、覚えている限り私に説明してください」


「わかりました、ユナ様」

 

 ナギは、自分が視たこと、感じたこと、その全てをユナ様にお伝えしようと思った。

 

 **** * *  *  *   *


(意識が戻った?)


 ここは〈弥終いやはてやしろ〉の本殿。

 希は実体のない精神体としてここにいる。

 ホストなしでここにきたのは、希の記憶ではこれで二度目になる。

 夜の暗闇の中、灯籠の灯りが見える。ユナが起きているのであれば話をしたいと思い、私は離れのほうへ向かった。

 

(部屋の中でユナとナギの気配を感じる。意識を集中すると会話の内容がわかる)

 

 希は希は精神操術マインドクラフトを習得したことで感覚が研ぎ澄まされたのだと感じた。


「私が演習でミツルギノゾミとして目が覚めた時、日下部くさかべという診療士が目の前にいました。ノゾミは面談の最中に急に眠っていたようです。日下部は目が覚めたのが誰なのか疑っていた節があるように思えました。何かを探るような目で私のほうを見ていました」


「そうでしたか…… その前に貴女はまだのぞみさんと会ってお話したことはなかったのですね。実はわたくしは、過去に希さんの精神体とお話したことがあるのです。とても素敵な女性でした。貴女もこれからは希さんと呼ぶように。良いですね」


「はい、ユナ様。私もいつか希さんとお話がしてみたいです」


「近いうちにお話できる日がきます」

 

(私はナギをホストにしたことで親近感をもっている。私もナギと会話してみたい。いまナギは演習で私をホストにした時の話をしている。大学のベンチで瞑想状態に入った時だ)

 

 希はしばらくそのまま、二人の会話を精神操術で聞いていた。

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