11.風に呼ばれて

「試験疲れたーっ!」


 うーんと思いっきり伸びをしながら大声を出すサラ。

 その隣で、こら、となだめつつもアリサは笑っている。


 ゴールデンウィーク明けにあった中間試験。

 なんとかそれを終えた放課後。

 思わず大声を出してしまってもしょうがない。


「二人はこれから部活なんだっけ?」

「定期演奏会近いからね。サラも大会近いんだっけ」

「うん、近くなくても走るけどねー」

「そっか」

「未結も部活入ればいいのに。楽しいよ?」

「そうだね、入りたくなったら考えるよ」


 何度目かのやり取りに、いつも通りに答えれば、そっかーと、サラ。

 それ以上は深堀りはされず、話題は先ほどまでの試験の答え合わせに移る。


 部活に入りたくないわけではない。

 実際、中学の頃は部活をしていたし。

 ただ、あまり大人数でなにかをやる、ということが合わなくて、ちょっと疲れてしまったのだ。

 もちろん、一人でなにかをする部活だってあるけれど、活動内容があまり私には合わなかった。

 この学校では入部は強制されているものではないので、まあいいかな、と思い、一年生の頃から帰宅部だ。


「今回の試験、全体的に自信なーい」

「とか言いつつ、いつもそこそこの点とるでしょ、サラは」

「アリサはいつも満点かそれに近い点数叩き出してるじゃん」

「誰かさんもちゃんと勉強すればとれるでしょ。一夜漬けなんてしないでさ」

「むー、だってつまんないし。ね、ね、未結は今回どーだった?」

「あー、うん、私も今回まったく自信ないかも」

「仲間だー!」


 あいまいに笑えば、ギューッとサラが抱き着いてくる。

 ふわふわの髪の毛が頬を擦って、少しくすぐったい。

 小柄な背中をポンポンと叩きながら、テストの結果のことを考えて、胃がキュッとなる。


「三人とも、仲いいのはいいことだけど、戸締りできないから早く出てよー」

「あ、ごめん!」


 日直の言葉に私たちは、急いで帰り支度を始める。

 そのままその場で解散となり、私は一人、校門へと歩いていた。


 そよ風が吹く。

 春の温もりと夏の兆しを乗せた風は心地よくて、思わず立ち止まったときだった。


 声が、聞こえた。

 それも、かなり聞き覚えのある声が、一つ。

 なにを話しているかはわからない。

 だけどなぜか、風に呼ばれた気がしてそちらに一歩、二歩、と足を動かしていく。


 辿り着いたのは、校舎裏。

 柳生くんが、一人ぽつんと立っていた。

 他には誰もいない。

 いないはずなのに、柳生くんは小さな声でなにかを言っている。

 内容までは聞き取れないけれど、どうやら会話をしているような雰囲気だ。

 もしかしたら誰かと通話をしているのかもしれない。

 それなら声をかけないほうがいいに決まっている。

 立ち去ろうと、足を動かしたときだった。


「……っ!」

「え」


 音は立ててない、だって今足を浮かせようとしたところだったから。

 それなのに振り返った柳生くんとしっかり目が合った。

 まるで、そこにいるとわかっていたかのような、そういう視線の移動だった。

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