第十章

第十章 ①

 そんな最終日は、俺は学校で授業を受けるところから始まった。そんなことをしている場合ではないのではないかと思ったが、悠姫は日中やりたいことがあり、それに加えて、ただでさえ成績があまり良くないのに平常点まで落としたらまずいという理由で、俺を学校へと駆り出した。

 しかしながら、こんな状況で授業に集中できるはずもなく、俺はずっと担当の教師の言葉を右から左へと聞き流し、頭の中では夕方からのことを考えていた。

 ちなみに、悠姫は急に死んでしまったから世話になった人に伝えきれていなかった謝辞をすると言って、いろいろなところを歩き回っているらしい。どのように自分が悠姫であると証明するのかとか、気になりだしたらきりがないが、あいつがやりたいと言っていることだ。自由にさせてやろう。

 そして、そんなことばかりを頭の中で考えていると、学校の六時間なんて一瞬で終わる。そしてその日は、俺は欠席した日を除けば、初めて『トリカブト研究会』を休んだ日となった。

 終業のチャイムが鳴った瞬間に学校を後にした俺は、見慣れた道をがむしゃらに駆けた。周りにはうちの生徒がいっぱいいるし、それに加えて走りにも自信はないが、とにかく駅まで全速力で駆けた。悠姫と過ごせる時間を、一秒でも無駄にはしたくはなかったのだ。

 駅構内でも、人にぶつからないように気を配りながら走る。そして、電子マネーを改札機に力強く押し付けて通り抜ける。周りには、うちの生徒はあまりいなかった。......まあ、それもそのはず。まだ終礼からに十分もたっていないのだ。むしろ、なんで数人ここにいるのかが気になるところではある。

 しかし、そんなことを考えるほど俺の頭に余裕はなない。そんなことのために脳に酸素を送るくらいなら、酸素原子一つでも多く、足の筋肉に送りたい。

 いつも乗っている時間帯ではない時の電車についての知識については限りなく乏しいが、乗り場さえ間違えなければ大丈夫だろうと思った俺は、二番乗り場という文字だけを確認すると、今ちょうどホームに着いていた電車に飛び乗る。

 息を整えながら、適当に空いているシートに座って、電車が動き出すのを待つ。結果的に言えば、扉が閉まって電車がホームを後にしたのは俺が乗車してから一分くらい後のことだった。これならそこまで急がなくてもよかったなとは思いつつも、気分的にはそうせざるを得なかったのだから仕方ない。反省も後悔も全くない。

 そして、そのまま電車に揺られること約十五分。俺は見慣れた街へと帰ってきた。電車の扉が俺の肩幅がぎりぎり通るくらい開いたら、俺は間隙を縫うように走り出した。

 帰宅の時間帯だからだろうか。周りにはそれなりの人が見られた。そしてそのせいでとても走りづらい。仕方ないので改札までは早歩き程度の速度に落としながら歩く。

 だが、改札を抜けてからはまた、全速力で疾駆した。......まあ、もう目的地は目と鼻の先だけど。

 駅構内から外へ出ると、目の前にはそれなりの広さの広場が広がっている。そして、悠姫とはそこで合流することになっていた。事情を聴いてみると、そこが最後の目的地に一番近いからだそうだ。集合場所を俺の家や悠姫の家じゃなくここにしているということは、悠姫は電車を使ってまで謝辞を伝えに言っているということだろうか。

 俺は、いまさら何もすることはないので、広場に円を描くように設置されているベンチの一つに腰を掛け、ただひたすらに悠姫が来るのを待ち続けた。周囲からは、子供のはしゃぎ声やら学生の和気あいあいとした談笑やらが聞こえてくる。普段ならそんなときに一人でいると寂しい気分になるのだが、不思議と今はそんなことは全く感じなかった。

 そして。

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