第三章

第三章 ①

 ピピッ、ピピッ。

 聞きなれた無機質なアラームの音に誘われて、俺は美しくも儚い夢の世界から帰還した。

 いつも通りの、柔らかいベッドの上。

 俺は目を覚ましてもなお、布団から出ずにゴロゴロと寝返りを打つ。

 と、ここでとある異変に気付く。

 なんだか、身体がふわふわとしていて、何処か浮遊感を感じる。

 それに、さっきから寝返りを打つたびに頭がガンガンと痛む。

 それはまさに、一般的な風邪の症状だった。

 .......ここ数年は風邪をひいたことはなかったんだけどな。

 俺は額に手を当てながら、ぼうっとそんなことを思った。

 まあしかし、昨日のこともあり今日はあまり学校に行きたくなかったので丁度良かったといえば丁度良かったのだが。俺は、あまり力が入らない手を伸ばし、先ほどアラームが鳴っていたスマートフォンを手に取る。

 電源ボタンを軽く押すと、スリープの状態から復帰する。光に慣れていなかった目は一瞬眩むも、数秒経ったら自然と慣れていった。

 そして、ひとまず時間を確認する。......辺りはまだ暗いからそこまで遅い時間じゃないとは思うんだが。そう思って見たホーム画面のウィジェットとして置いてあるデジタル時計は、『06:37』という四桁の数字を記していた。

 やはり予想通り、そこまで遅い時間ではなかった。

 そして、俺は時間を確認すると、再び電源ボタンを押して、スマホをスリープ状態へと戻した。こんな短時間の使用でも目が疲れてしまったのだ。

 ......さて、これからどうしようか。

 暗い天井を見つめながら俺はぼーっと考える。

 学校を休むのは確定なのだが、学校に連絡するのは面倒だな。......一回くらい無連絡でも何も言われないだろうか。

 親にやってもらってもいいのだろうけど、うちには母親しかいないし、多分その母親ももうとっくに仕事に出かけているだろう。

 もうなんか考えるのも疲れたし、無連絡でいいか。

 .........じゃあ、とりあえず今日の予定は決まったし、熱が引くまで寝るか。

 俺は踏んで壊さないようにと、スマートフォンをベッド脇へと置こうとする。

 しかしその途中で、俺の手の動きはピタリと止まった。

 ......そうだ。寝る前にまだやることがあることをすっかり忘れいていた。

 俺は先ほどまで伸ばしていた手を元に戻し、再びスマートフォンのスリープを解除した。

 そしてそのまま、いつも使っているメッセージアプリを開き、スワイプしてとある人物の名前を探した。まあ、そこまで友達が多いわけじゃないので、探していた『紫水蘭』の文字はすぐに見つかる。

 俺はフリック入力を駆使して、数秒で『すまん、今日熱で休む』と打ち、送信した。

 ......もし昨日のように悠姫がウチに来たら、余計に頭が痛くなりそうだからな。

 そして、メッセージが送信されたのを確認するや否や、スマホをベッド横へと置いておくことすら忘れ、すっと眠りに落ちた。

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