フィナーレ

1 リフレクト

 目にも鮮やかな七夕飾りが、白南風にたなびき踊り出す。しみの付いた道端では、屋台が忙しく、それぞれの芳香を放っていた。

 七夕祭り最終日。「under the highway」は、新曲お披露目ライブのために、商店街を訪れていた。

 微力ながら、渚も荷物運びを手伝っていると、日向がふらりと近寄ってきた。

「今さら聞くのも変だけど、リフレクトは、反射するって意味の英語なんだってね。どうして、物の名前でも文章でもなく、動詞で名付けたの?」

 ああ、と気付いたような声を漏らし、渚が説明する。

「確かに一単語しかないですけど、これも英文なんです。命令形で、『反射しろ』と訴えかけるつもりで」

「あっそういう意味か!」

 慌ててラスサビの一節を口ずさんでから、全身で合点がいったことを表現してくれた。一瞬だったけど、さすがの歌声だと感嘆する。

 ライブ会場として用意された区画は、他と比べても、また一段と広かった。だがいざステージを設営すると、思った以上にスペースは埋まってしまった。ドラムやアンプがかなり場所を取るからだ。確かに、運ぶときから大変だったもんな。

 楽器と機材の準備が終わると、今度は所定の位置でチューニング。渚も観客側に立つ。全員が真剣な面持ちになるにつれ、あたりの空気も澄み渡っていくような気がした。

 音が途絶える。記念すべきライブは、人気曲のカバーメドレーから始まった。

 商店街を彩る音。雑居ビルをかいくぐる陽光みたいに、きらきらと一面に降り注ぐ。たわわと実る色紙を、誇らしげに抱える笹。そこに一陣の風が吹いた。優しい調べが、遠く遠く広がっていく。本当に気持ちがよかった。

 エレキ独特の余韻がプチッと切れる。途端に拍手が上がった。今日は人が多いこともあって、既に両手で足りるか否かぐらいの人数は、ステージを取り囲んでくれていた。

 日向がマイクスタンドを離れる。向かう先は、ステージの横に準備しておいたエレキギター。ドラムが一定のリズムを刻みだす。律もベースに持ち替えた。さっきとはうって変わった静けさが、新曲披露への期待と不安を増幅させる。

「えーっと――」

 おもむろに日向がマイクに顔を近づけ、バンドの自己紹介と宣伝をする。

「これから歌うのは、俺たちの最新曲です。夢を追う人、夢に悩む人、夢を持てずにいる人、持つことをとうに諦めた人にも、どうか夢見る喜びを思い出してほしい。今も夢を叶えられずいじけてる俺が言うと、矛盾して聞こえるかもですけど……夢はきっと、そのきらめきを反射して、自分を輝かせるものだから」

 渚ちゃんが教えてくれた。人はみんな不完全で、世はいつも理不尽で、必ずしも望みが叶うとは限らない。でも、努力は必ず報われる。それは結果を残すという意味ではなく、人として自分を成長させ、少なからず自分を好きになれるということ。

 人はみんな不完全で、世はいつも理不尽で、だからこそ、何度でも幸せを更新していける。

「聴いてください、『リフレクト』」

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