midnight6

 電話が切れる。望月はスマホを尻ポケットに滑り込ませると、店内に戻ることなく、長い間夜風に吹かれていた。

 突如として、哂う。

 俺が素直に芹沢を放っておくわけねぇじゃん。長谷は、やつの潔白を主張する何かを見つけたようだが、それこそ罠に決まってる。黒い部分は下に押し付けて、自分をピッカピカの真っ白に見せる。裏社会の常套手段じゃねぇか。まあ無知な一般人じゃあ、真実に辿り着けるはずもないか。

 真っ赤な唇が、三日月に裂かれる。望月は声を押し殺して、腹を抱えて、天を仰いで嗤った。するとまた唐突に、笑みが消え失せる。表情そのものが抜け落ちたようだった。彼は天空の彼方に目を凝らし、おそるおそる手を伸ばした。

「なあ沙羅、Bist du glücklich?」

 今度の宿敵はキメラ総帥。ウロボロスを引き継ぎ統べる女帝。沙羅を殺したウロボロス組織員を知り、殺人に目をつぶるどころか、その犯人を匿い続けている悪女。

 そう、芹沢澪を憎んでいるのは、一人じゃない。

 そして俺の恨みの方が、はるかに猛烈で凝固で遠大だ。

「Alles ist für dich……」

 ポツ、と頬に雨粒が当たった。瞬きする間にも、音を立てて本降りになっていく。今年も夕立の季節になったのか。望月はそう陰鬱に思い、しかし打ち付ける雨はまるで気に留めなかった。それは服が濡れても、黒髪が雫を滴らせても、目に雫が入り――黒いカラーコンタクトレンズが外れても。

 あらわになったのは、北条沙羅=エレオノーレと同じ、青い瞳。深淵を見るような昏い藍だった。

 視線を地上に戻す。次いで見据えるのは、事務所のビルが建つ方向。

 猛々しい眼が、てらてらと光る。

 決戦は来週土曜。沙羅の自己ベストと同じ二千四百ヤードで、同じ血を受け継ぐ俺が、お前の心臓を射抜いてやる。



 FILE01:逃がし屋・望月の死神

 ↓

 FILE01:復讐者・北条祇園=ラインハルト

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