リフレクト1②

 消極的な感情は否めない。でも、そんなものよりはるかに、歓喜にも似た感情が心を満たしていくのが分かった。明瞭に分かった。

 やっぱり私は、ロマンチストなんだろうな。

「おいヒューガ! さっきから、どこほっつき歩いてんだよ。早く設営しちまわないと、次のバイトまでにライブ終わんなくなるぞ」

 もう一人強面の男が来て、ヒューガとやらを半ば締め上げるように肩を組んだ。

「悪いギンジ。あとちょっとだけ待って」

 やんわりとギンジの腕を解くと、ヒューガはとっさにその場で荷を解いた。件の鞄には、黒いアコギが収められている。ヒューガさんはバンドマンだったんだ。彼は乱雑に詰め込まれていた大学ノートを取り出し、白紙ページにいくつかの日時を走り書きした。

「この時間を目安に、いつも駅前で路上ライブをするんだ。さっきの話、少しでも興味があるなら、また声をかけて」

 まっすぐに破り取られ、四つ折りにされたノートを受け取る。私と同じ右上がりの字で、明日から書かれた日付は全て連続していた。

「長話になってしまってごめんね。寄り道せずに、早く家に帰るんだよ」

「……はい!」

 渚はノートを両手で抱きしめ、深々と頭を下げた。

 ヒューガさんはいいひとだ。私のメモを見て見ぬふりをせず、わざわざ持ち主を探してくれた。バイトに追われ見るからに忙しそうなのに、その合間を見て、毎日駅前で夢を追いかけている。

 そして何より、一人でも多く観客を集めるべき路上ライブに、私を誘おうとすらしなかった。それはたぶん、まだ学生の身である少女を気遣ってくれたから。

 やっぱり、ヒューガさんはいいひとだ。

 また一人、バンド仲間と思しき小柄な男と合流し、楽器をいじりはじめる彼。その姿に背を向けると、渚は意味もなく階段を駆け上がった。右手に握った招待状を開く。

 

 ロックバンド『under the highway』ボーカル担当、佐久間日向。もしよければ、俺たちの曲に歌詞をつけてくれませんか。

 

 彼女は、幾度となくその文を目で追い、人知れず笑みを浮かべていた。

 

 FILE05:歌う者・佐久間日向

 FILE06:詠う者・渚(現段階では苗字不明)

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