リフレクト2①


 翌日、朧月夜の駅前広場にて。渚の姿を認めた日向は、途端花が咲くみたいに満面の笑みを浮かべた。

「よかったぁ、来てくれたんだね。俺たちの演奏はもう聞いた?」

「はい、後半少しだけですが。どの曲も耳ざわりがよくて、すごく優美だなって思いました」

「優美なんて言葉が出てくるところが、一番優美なんじゃないかな」

 ふふっとどこか嬉しそうに笑いながら、日向は他のメンバーを呼び寄せた。ぞろぞろと歩いてくる二人の男。そのうちの一人が、私に気付く。

「あれ、昨日口説かれてた女の子じゃん。今日はこいつに会いに来たの?」

「あ、まあその……」

「イエスでもノーでも正解にならない質問なんかすんなって。相手めっちゃ困ってるだろうが」

 日向がいきなり、彼の脳天をチョップする。あ痛たた……と大袈裟につむじをさする男。男子って、大人になっても男子なんだな。

 そう思っている人物が、どうやら他にも。

「一番彼女を困らせているのは、二人のドツキ漫才だと思うけど」

 呆れて肩をすくめる男。彼は終始苦笑を浮かべていたが、心の底では、誰よりもこの場を楽しんでいるように見えた。

 日向が一つ咳払いをする。

「仕切り直して紹介するよ」

 メンバーの後ろに回りこみ、二人の間から顔を出す彼。

「まず、こっちのガタイのいいやつが、ドラム担当の須藤銀次。パッと見かなり怖いけど、根は優しくて本当に気さくだから。もう一人のこいつは、ギター兼ベース担当の奈良坂律。女子よりガリでチビだけど、実は音楽一家のお坊ちゃまで、技術面では俺らの中で文句なしの一番さ。そこにボーカル担当の俺を合わせて、三人でバンドを組んでるんだ」

 日向が身を乗り出して、二人と固く肩を組んだ。その姿は心底楽しそうで、希望に満ち溢れた無垢な少年のようであった。

 そうして、私たちから少し離れたところで振り返る。

「そんな二人にご報告です。実は、俺が準備してる新曲の作詞を、彼女に依頼することにしました!」

 浮き足立って拍手する日向。しかし、加わっていく者は一人もいなかった。

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