第4話

 作戦から3日ほど経ち俺は目覚めた。俺はカーテンを開け、体いっぱいに太陽を浴びて本格的に体を起こす。天気は雲一つない快晴だが、正直気持ちのいい朝ではない。3日前の作戦は失敗。禁術魔法に関する書物は見つからなかった。


 腹が減ったな。服を着替え食堂へと向かう。


 食堂につくと。


 「うまい、う、うまい」


 見慣れない少女が飯を頬張っている。3日前の作戦で救出した少女だ。バレットが嬉しそうな表情をしているので恐らく奴が作った飯だ。あのクソまずいバレットの飯を食べて美味いと言っている。相当な馬鹿舌なのだろう。研究員たちはこの不思議な光景に興味津々なのか彼女を囲っている


 少女は俺と目が合うと、こっちにこいと言わんばかりに手招きする。少女の対面の席が空いていたのでそこに座る。


 「お前さん、悪魔の契約者じゃな」


 唐突な発言に俺は口を開け放心する。


 「無視かの?まあそんなことはどうでもよい。早くおかわりを用意せい」


 ひとこと会話をすると無心に飯を頬張る。


 色々聞きたいこともあるが飯に夢中なので落ち着くまで待つことにした。


 30分が経ちお腹一杯になったのか満足そうに笑ってぐったりしている。調理を終えたバレットが帰ってきた。


 「そろそろ、あなたについて教えてほしいわ」

 

 バレットは机に肘をつき質問する。


 「わしの名はソフィア。ソフィア・ベネットじゃ」


 バレットは名前を聞くと続けて質問する。


 「どうしてあんなところに封印されていたのかしら」


 少し無言になるが、ゆっくりとは話始める。


 「わしは220年前まだラウールベルクが建国される前、わしはラウールベルクを興したセシル・テイラーと魔法を研究しながら旅をしておった。あまり仲は良くなかったがのう、別に嫌いじゃなかった。わしは国を興すなんて全く興味がなくて魔法の研究ばかりしていた。そこからじゃったかのう、セシルと距離が離れてしまったのは。いまから200年前、セシルが国を興そうとするときわしの力を恐れたやつは、竜人族の国ドラゴライトの奴らと共謀しわしを地下に封印したというわけじゃ」


 俺は追加で質問する。


 「じゃあ、セシルが恐れるあんたの力っていったいなんだ?あんまり強そうには見えないが」


 俺の発言にイラっとしたのか少し不機嫌になる。


 「わしは基本属性の魔法は使えないが、禁術魔法の使い手じゃぞ。あらゆるところに移動できる転移魔法や傷を癒す回復魔法がつかえるのじゃ。あんまり馬鹿にするでないぞ」


 バレットと俺は目を合わせ確信する。ラウールベルク地下に眠る禁術の正体はこの少女だったのだ。


 「つまり、ソフィアは200歳以上のロリババアって..」


 俺が全てを話しきる前にソフィアの全力パンチにより邪魔される。


 「だ、誰がロリババアじゃ!!」


 怒らせるとかなり怖い。


 吹き飛ばされた俺を指さしソフィアは話す。


 「あの生意気なガキは悪魔の契約者じゃな。セシルがやっていた悪魔研究は成功したのか?」


 この発言にバレットは反応する。


 「ソフィアちゃん、悪魔について知っていること全部教えて頂戴」


 ソフィアは少し唸り話始める。


 「わしも目覚めたばかりであまり覚えてないのじゃが、悪魔はセシルによって作られたものじゃ。全部で7体おり、七つの大罪から憤怒、嫉妬、色欲、傲慢、怠惰、強欲、暴食をモチーフにした能力になっておるのじゃ。能力については詳しくは分からないがのう。それ以上は覚えておらん。何か大切なことが忘れている気がするがのう」


 「ノアちゃんの悪魔はどの罪にあたるのかしら?」


 バレットは俺に聞いてくる。


 「確か契約するときに【憤怒】と言っていたな。詳しいことも聞きたいし召還して聞いてみるか」


 俺は指を鳴らしサタンを召喚する。サタンは2頭身の小人のような姿で召喚された。


 「ふん、初めましてだな人間ども我が名をサタンという。ひれ伏すがよい」


 自己紹介とともにサタンに傅くバレットはまるで家臣のようだった。


 「これが悪魔かのう?小っちゃくて弱そうじゃ」


 ソフィアに馬鹿にされサタンは地団駄踏んで悔しそうにしている。


 「おいサタン。他の罪の悪魔について何かしらないか?」


 俺はサタンに質問する


 「ほとんど分からないが【暴食】のやつとは気が合わなかったな」


 「そんな情報何の価値もないのう」


 ソフィアがサタンを煽る。


 どうせ役立たずなのは知っていたが、ただ興味本位で召喚してみたかった。サタンが俺に何か文句を言ってるようだが指を鳴らし帰還させる。


 「とりあえず俺らじゃ戦力不足だ。他の悪魔の契約者を仲間にいれよう」


 魔法のない平和な世界を目指すため新たな目標へと歩み始める。



◇◇◇



 私は魔法エリート一家リンドバーグ家の長男ヒューゴ・リンドバーグだ。以前弟のノアが首席でエーデルシュタイン学園を卒業した。一部の上層部では才覚、人徳の良さから次期魔導士長はノアになるだろうと話されていた。俺は弟に嫉妬していた。だがノアが精霊に選ばれることはなかった。期待が高かったがために多くのバッシングを受けていた。私にとっては幸運だった。昔から憧れていた魔導士長になれるチャンスがやってきたのだ。上層部に取り入り、ノアを国外追放に追い込みことができた。


 俺にとって弟は愛する家族ではなく憎むべき敵なのだ。この世界では魔法が全てだ。魔法が使えなきゃ上に立つことはできない。例え、魔法以外の才能に恵まれていたとしても。


 先日、城に侵入者がいたらしい。地下の様子を見ると、兵士や魔導士が見るも無残に蹂躙されていた。奴らが何のために入ったか分からないが、この侵入者を捕まえることができれば大手柄だろう。この町の国民が恐怖に染まることない平和な世界をこの私が実現するのだ。不出来な弟ではない。この私がだ!!



◇◇◇



 兄さんは今頃どうしているのだろうか。アリシアさんも魔導士見習いとして忙しそうだ。兄さん宛てに書いた手紙に返信は返ってこない。ドルクマでの生活はうまくいっているだろうか。いつもそればかり考えている気がする。




◇◇◇



 魔導士になるのって大変。最近魔導士見習いとして働き始めた。ノアと魔道士を目指していくと思っていたのに。当たり前が保障されているわけではないなんて分かっていたつもりだった。あの日、私は神々しく光り輝く精霊と契約した。専門家の研究により光属性であることが分かった。希少な無属性ということもあり皆が期待していることはすぐに分かった。ローレンス家の人間はとても喜んでいた。私はどこか自分だけ違う世界にいるみたいな疎外感に襲われた。私は社会のしがらみなんてどうでもよくて、ノアやニコと毎日楽しく暮らす。ただそれだけで良かったのに..


 私は魔導士になる。私が望む望まないに関係なく。それがローレンス家の長女としての最善なのだから。


 













 


 


 

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