第5話

 「当分は魔法大国ラウールベルクの占領を目標にやっていくわ」


 バレットは作戦室で話始める。ここには研究員数人と、バレット、俺、先日ラウールベルクの地下に封印されていた200歳越えロリババアことソフィアの皆で次の行動について検討している。


 「そのためには戦力が必要だな」


 俺はバレットに返す。


 「そうね、戦力を集めるのしても特に情報がないわ。なので集めに行くわ、自由の国アーバンリフトへ」


 昔読んだアーバンリフトについて書かれた雑誌の記事を思い出す。


 自由の国アーバンリフト。世界最大の人口を誇っている他種族国家。貿易が盛んにおこなわれている商業の街。巨大な生物が持ち上げている大地に国を造っており、一定の場所に留まることなく常に移動し続けている。土地が他の国に比べて少ないので道も狭く隙間なく建物が並んでいる。移動していることで他の国の人と関わりやすく、商業の街の他に情報の街とも呼ばれている。


 「アーバンリフトに行くためには各地にある駅に行ってエレベーターに乗る必要があるわ。まずは行く準備を始めましょ。出発は明日、それまで各自自由行動よ」


 バレットが解散を言い会議が終了する。


 自室に戻ると、などを雨が打ち付けてコツコツと鳴っている。普段なら外出する気にはならないが、今日は何か違った。


 「ソフィア、外にでも飯でも行かないか?」


 「仕方ないのう。暇じゃしついていくか」


 ソフィアが頷き了承する。


 傘立てに傘が一本しかないので傘の中に入れてやることにした。歩き出す。特に行く場所なんか決めてないが、適当に歩く。


 「お前さん、なんでわしを誘ったんじゃ?」


  くるっと回り振り返って道すがら聞いてくる。


 「バレットが作った飯を美味いものだなんて思ってほしくなくてな。そんなとこだ」


 ただ話をしたかったなんて何だか照れ臭くて言えなかった。


 人が多くて傘がぶつかる。雨に濡れ文句を言うソフィアを無視して店を探す。


 良さげな店を見つけた。店内はこれといって目立った装飾はなく質素だが、どこか温かみのある感じだ。普段豪華な食事ばかりだった俺だが庶民の食事の方が好きだ。ときより町に行ってよく食べていたことを思い出す。


 適当に注文する。外の雨がさらに強くなる。初めてのお店でワクワクしているのか子供のように足をばたつかせている。俺は1つ質問してみた。


 「ソフィアはどうして魔法研究なんかしてたんだ?」


 ふと聞かれた質問に驚いたのか少し無言になったあと口を開いた。

 

 「好きじゃったからかのう。わしにとって魔法は楽しい物じゃった。セシルは力を使い何やら企んでおったが、わしは本当に魔法が好きじゃった。だからといえば答えになるのかのう?」


 好きね..好きだという彼女の表情には楽しさなんてものはなく、影がある。いつか話してくれるだろうか。


 料理が運ばれてきた。テーブルいっぱいに注文してしまったが全部食べれるか不安だ。でも心配は一瞬で消えた。目をキラキラさせてソフィアは料理に食いついている。


 「な、なんだこれ。これも。これも。美味しい。幸せじゃ~。」


 リスみたいに頬を膨らませ至福の表情になっている。さっきまで暗かった表情が一瞬で明るくなった。


 すべてを食べ満腹になったのか満足そうにしている。お手洗いに行って帰ってくると気持ちよさそうに寝ていた。最近まで封印されていたなんて嘘みたいに。


 代金を払い。ソフィアをおんぶして店を出る。どうにか傘を差し歩き始める。すーすーと寝息が聞こえる。かなり熟睡みたいだ。魔法が好きだと言っていたのに、魔法のない世界を目指す俺たちにどうして力を貸しくれるのだろうか。


 研究所に着く。みんなの声で起きて、俺におんぶされている状況に驚いたのか罵声を浴びせ殴る。


 「なにおんぶしているのじゃ!変態!寝ている間にどこか触ったりしてないじゃろうな」


 「誰がお前の貧相な体なんて触るか」


 「な、なんじゃとー-!」


 ボソッと言ったが聞こえてたみたいで、さらに殴られる。飯を食べてた彼女がかわいいなんて思ってた俺は考えを改めた。このロリババアが!



 ◇◇◇



 次の日。アーバンリフトにむけ移動を開始する。昨日ソフィアに殴られた箇所が痛む。あのやろう許さねぇ。エレベーターが来る駅に着く。この時期はドルクマから一番近い駅に来る時期で、わざわざ遠出する必要もない。ただの情報収集ということもあり、ソフィア、バレット、俺を含めた3人でやってきた。


 駅に到着してから30分ほど待つと、大地を運搬している亀にも似た巨大な生物がどんどん近づいてくるのが見える。


 そこからさらに2時間。巨大な生物はちょうど駅のところで停止した。実際、真下の距離まで近づくと体がでかいことがよく分かる。ソフィアも驚きで開いた口が塞がらない。そんな様子だった。


 エレベーターに乗る。大きな体の側面に不格好に外付けされたリフトはたいした広さはなく、俺ら以外にもバレットが乗ろうとしたときにはもう彼の体格が収まるスペースはそこにはなかった。


 「先、行ってる。後で集合な」


 困っているバレットに一言俺は告げる。


 ソフィアと共に生物が持ち上げている大地の地上を目指す。上がる中でどんどん高度が上がり広がる景色は壮大で遠くに先ほどまでいたドルクマが小さく見える。


 地上に着く。バレットを待つ間にソフィアがどこかへ行こうとする。


 「おい、待て。どこへ行く」


 ソフィアの腕をつかみ捕まえる。


 「なんじゃ!待つ間に少し周りを見て回るのもよかろう」


 ソフィアはどうにか暴れて俺がつかんだ腕をはがそうとする。押さえておくのも面倒なのでちょうど近くにあった売店で食べ物を買って渡す。頬張って満足そうに喜んで食べている。食べ物を買い与えるだけで静かになるので正直楽だ。やはり子供みたいな奴だな。


 食べ終わったころ、ちょうどバレットがリフトで上がってきた。


 「お待たせしてごめんね。とりあえず出発しましょ」


 バレットは一瞬ソフィアの口周りに食べ残しがついているのに気づき取ってやると、歩き始めた。


 「どこに行くんだ?」

 

 俺はバレットに聞く。


 「そうね、情報を集める場所。酒場に行くわよ」


 少し歩くと酒場フランチェスカントニオと書かれたお店の前へと来た。


 「ここにはいるわよ」


 とバレットが言うので一同は店に入る。店内は柄の悪そうな奴らから静かに飲み食いしている奴までいろんな人がおり、賑わいを見せる。


 席に着く。バレットは早速マスターに質問する。


 「ここの街で強いことが噂になっている人とかいないかしら」


 マスターは少し考え、腕を組む。


 「うーん、そうだな。この町で強い奴といえばエーベルのアニキじゃないかな。この国のスラムを仕切っているボスだ。俺なんかに聞くよりそいつに聞く方がいいなじゃないか?」


 「スラムのボスね。ありがと。分かったわ」


 店を出る。俺らはスラムのボスことエーベルのアニキと話すためにスラム街へと向かう。


 



 


 


 





 


 


 

 


 

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