第3話

 作戦決行日、広場に集まり作戦についてバレットが話す。


 「作戦について話すわよ。ラウールベルクの城の地下にある禁術に関する資料を手に入れることよ。みんな作戦配置について。被害者をださずにみんな生きてかえるわよ」


 全員がうなずき、持ち場へと動き出す。ひしひしとした空気から、みんながこの作戦にかけている想いの重さが伝わる。俺も野望のために失敗するわけにはいかない。


 「ノアは私と潜入隊よ。絶対に作戦成功させるわよ」


 俺が緊張していることに気づいたのかバレットが抱きしめてきた。


 「くっ苦しい、内臓、口から出る..や..やめろ」


 なんとかバレットの絡まる腕を外す。

 

 「あら、顔が強張っているようにみえたから抱きしめちゃった。緊張は解けた?」


 「あぁ、ありがとな。行くぞ」


 作戦決行は深夜2時。ドルクマから移動を開始し、ラウールベルクに到着したら合図を待ち作戦に入る。



◇◇◇



 移動を終え、目的地であるラウールベルクの城下町へと着いた。ここからは俺が案内することになっている。人目につかない裏道へ誘導し、城の前まで行くことになっている。久しぶりに見る街の様子はいつもどうりで、これから事件が起こるなんて誰が想像つくだろうか。


 「ここだ、着いたぞ」


 俺とバレットは城の入り口付近の物陰に隠れ合図を待つ。


 無線からカウントの合図が入る。


 「3..2..1..0」


 0になった瞬間町の各地に置いておいた爆薬が爆発し、家屋に火が移る。町が騒ぎになり、警備が少なくなるタイミングを狙って城に入ることができた。


 幼少期に入って怒られた場所がどこかにあるはず。とりあえず何か思い出すかもしれないので道なりに進む。


 広いところに出る。たしか昔ここで舞踏会をした。部屋の中央には大きなシャンデリアが吊るされている。壁面にはよく知らない高そうな絵画、本棚、装飾が飾られており、煌びやかな空間になっている。部屋の奥に暖炉があることに気づく。


 たしかこの暖炉だった気がする。中に入ると特に変わった様子はない。昔こっそり入ったときに書いた落書きが薄っすら残っている。暗くて見えにくいので明かりを点けて細部まで調べる。


 暗くて分からなかったが、最近使われてなかったようで掃除もまともにされていないせいか蜘蛛の巣が張っている。調べていると奥の角に不自然な謎の出っ張りを見つけた。よく見ると蓋になっているようだ。俺はどこか高揚し開けてみるとスイッチが出てきた。


 「バレット、奥に怪しげなスイッチを見つけた。押すから周りに何か変化がないかみててくれ」


 俺はそう告げるとバレットは二つ返事する。


 俺はスイッチを押した。押した瞬間何か機械が作動したのか、轟音と共に壁面にあった本棚が移動し扉が出てくる。俺とバレットは顔を見合わせた後、慎重に扉を開ける。地下に続く階段のようだ。ビンゴだ。さっき轟音で警備に気づかれたようで声が近づいてくる。バレたのなら仕方がないので急いで階段を駆け下りる。


 降りると直線の通路に出る。わずかに明かりがあり少し薄暗い。特に書物のようなものは見えない。


 「本当にこんな地下に禁術が書かれた本なんてあるのか?」


 俺は道すがら聞く。


 「あるわ。私はみんなが調べてくれた情報を信じるわ」

 

 彼の目は真っ直ぐで瞳には静かな闘志を感じる。


 道なりに進むと、広い空間にでる。


 「何よあれ?」


 バレットが指す方向を見ると異常な光景があった。


 ルビーのような真赤な結晶の中に手足を鎖でつながれた金髪の少女がいた。目を閉じ眠っているようだった。背後の壁面には竜人族の国ドラゴライトの紋章が刻まれている。俺はその少女を見つめ結晶に触れる。その瞬間頭の中に少女の救いを求める声が流れてくる。


 「タ..タスケテ.....」


 その声に応えたいが俺にはどうにもできない。困惑するその間に警備の集団が俺たちを発見し囲む。


 「侵入者だな。逃げようとしても無駄だ。城の周りは完全に包囲されている。大人しく投降しろ!さもなくば武力行使により拘束させてもらう」


 まずい。城の周りも包囲されているとなると逃げるのもかなり骨が折れそうだ。まずはこいつら片付けてここからの脱出だな。指を鳴らしやる気を出す。


 「おいバレット!俺はこいつらを片付ける。その間にその少女を開放してくれ。俺じゃどうにも助けられねぇ。お前ら守りながら戦うぐらいな俺でもできる。任せていいか?」


 「任せて頂戴!」


 バレットは情熱的なウインクをしている。こんな時でも気持ち悪さを発揮するなとツッコんでしまいそうな気持ちを押し殺して戦いに挑む。


 槍を持った兵士二人が突っ込んでくる。すれすれで槍を躱し、武器を携帯モードから剣モードに即座に形態を変化させ反撃する。2人を切ると実力差を感じたのか兵士たちが距離を取る。時間をかけて増援を待つ作戦に切り替えたようだ。この間合いなら銃のほうがいいな。


 火の魔法弾を連射して兵士を一掃する。硬い鋼鉄でできている鎧を火の熱で溶かし貫通している。増援が来る前に何とか目の前の兵士たちを全滅させることができた。急いで二人のもとへ駆け寄る。


 少女はどうにか結晶から救出することができたようだ。バレットは少女を抱き、にっこり笑う。


 「助けたのはいいけどすごい熱よ。このままじゃ危ないわ。早くここからおさらばしましょ」

 

 バレットは少女を肩に担ぐと立ち上がりこの場を去ろうとするが、増援の魔導士に出口が塞がれていることに気づく。まずは先手をとって魔法弾をぶっ放す。だが、さっきの雑魚兵士と違い、躱すか防ぐかされて全く効いていない。反撃にあらゆる属性の魔法を喰らう。


 「ノアちゃん!!」


 二人の盾くらいにはなれたが、正直立っているのもやっとだ。俺の攻撃も歯がたたない。だが俺には叶えたい野望があるんだ。こんなところで負けてられない。俺は前へステップすると魔導士からの魔法をギリギリで躱し1人斬る。切った直後他の魔導士に反撃を喰らう。


 血が止まらない。体がもう限界のようだ。バレットの俺を呼ぶ声もだんだん薄れて、意識が薄れていく。血を流し過ぎたみたいだ。足に力が入らない。膝が折れ前かがみに倒れる。


 


 薄っすらとした意識の中、力を振り絞り起き上がり立ち上がる。体が赤黒いオーラに包まれる。




 前に足を踏み出した瞬間、魔導士が3人殴り飛ばす。何をされたのか分からなかった魔導士は動けずにいた。その間に1人また1人なぎ倒していく。ようやく大変なことになっていると気づいた魔導士らは反撃のために詠唱を始めるも、その隙を見せた間に倒されていく。たった数秒で囲っていた魔導士らは全滅した。


 悪魔の力が解除される。体の限界と安堵したからか倒れ意識を失う。



◇◇◇



 「こ、これが悪魔の力なのね」


 私はたった数秒に何が起こっていたのか全く分からなかった。目で全く追えない速度で魔導士は倒されていった。


 現状を整理する。とりあえず二人を抱えこの場の脱出を試みる。作戦では禁術の書物を手に入れたら、事前に用意していた簡易テレポートの魔法陣を使う予定だった。


 ラウールベルクの城前とドルクマとラウールベルクの間に作った簡易拠点を結ぶものだ。ドルクマに直接つなげた方がいいのだが、まだ技術的にそこまで長い距離をテレポートできない。さらには一方通行で事前に決めていた方向からしか使えず、往復できないのだ。


 増援が来る前に急いで城から出る。外にはまだ増援は集まってないみたいだ。簡易テレポートを使い拠点に着く。


 「バレットさん作戦収穫はどうでしたか?」


 私はみんなに成功とは言えなかった。


 「城の地下には魔法に関する書物なんか無かったわ。そこには今抱えてるこの少女が封印されてただけよ。そんなことよりノアちゃんが重症よ治療してあげて」


 「はい!!」


 研究員みんなが返事をする。治療と並行しドルクマへと帰る準備を始める。


 作戦は失敗だった。でも私はこんなことでは折れない。大切な人を失う苦しみをこれ以上増やしたくない。私も張りつめていた緊張が解けて気絶するように眠った。

 


 


 


 


 


 


 


 


 



 

 






 



 


 






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る