第51話 見付かることなく
「弦義!」
検問所を破壊して数日後、弦義たちは馬で王都フォーリアから遠いとある町にやって来た。町の掲示板には弦義の指名手配書が貼られていたため、弦義はフードを目深に被って顔を隠している。
隣町へ偵察に行っていた白慈が大声で弦義の名を呼んでしまい、全員が「しーっ」と指を口にあてた。
「ご、ごめん」
「ここはもうアデリシア王国内だ。軽率に動くなよ、白慈」
「わかったよ、和世。弦義もごめん」
「構わない。この辺りは人気もないし、他の場所で気を付けてくれれば」
苦笑して白慈を許した弦義は、周囲を警戒した。
彼らがいるのは、町の端にある河川敷だ。大きく立派な橋が彼らの頭上にかかり、姿を隠してくれる。乗って来た馬たちは、草をはみ水を飲んでいる。
白慈の報告を得てから、ロッサリオ王国とグーベルク王国へ手紙を送る予定だった。
「白慈、報告を頼むよ」
「わかった」
はいっと右手を挙げて、白慈は偵察先のことを話し始めた。
「もう一つ向こうの町でも、弦義は指名手配されてる。ここより大きい町で王都に近いからか、兵士や警察の目が厳しいよ。余所者を警戒してるみたいで、オレも何度か呼び止められた。その度に『病気の祖母の様子を見に来たんだ』って言い訳して逃げたけど、噂が酷い」
「噂?」
「そう。この前の検問所の一件だ。弦義が仲間と一緒に検問所を襲って、人を何人も殺して血の海にしたって! そんなことあるはずないのに!」
「落ち着いて、白慈」
いきり立つ白慈を落ち着かせ、弦義は「やっぱりか」と腕を組む。
「僕をどうしても悪者にしたいらしい。噂が嘘だってことは当事者に聞けばすぐにわかることだけど、人々はより面白い方が良いからね。真実を訴えても広がりはしないだろう」
悲しいことだが、良いことよりも悪いことの方が広まるのが速い。その速度は、倍は違うだろうか。
「これで、アデリシアで動き辛くなった。だけど、それも織り込み済みなんだろ?」
「その通りだよ、和世」
弦義は頷くと、これからの方向性を決定した。
「こそこそ動いては怪しまれる。僕は面が割れているから顔を晒すわけにはいかないけれど、みんなには普通に過ごして欲しい。これから手紙を書くから、白慈はもう一度お使いを頼まれてくれるかな?」
「わかった。宛先は二国?」
「そう。ただし、王城宛じゃなくてこのメモの場所に。直通ではないけど、各王の側近に届くから」
「了解」
その場で弦義は二通の手紙を書き、白慈が河川敷を飛び出した。
少年の背を見送り、那由他は川原の石に腰を下ろした親友を見下ろす。
「弦義、何処で開戦するかもわかってるのか?」
「明確な所はわからない。だけど、頭の切れる野棘が、王都で何も準備をしないわけがない。……国賊である僕を殺すため、刺客を必ず放って来る。そして、軍くらいは用意して脅して来るはずだ」
「……もしも、アデリシア王国の国軍が刃を向けてきたら、どうする? 俺たちは徹底抗戦でも構わない」
はっきりと戦う意志を示す那由他を見上げ、弦義は苦笑いを漏らす。和世もアレシスも、弦義の答えをわかっていながら耳を傾けていた。
「軍隊と戦うことはしない。勿論、二国の兵士にも戦わせない。……ただ、抵抗はするけどね」
「お前はそんな奴だ」
「幻滅したか?」
「するわけがない。……必ず、お前を守り切って王都へ乗り込む」
那由他の決意は、揺るがない。そしてそれは、和世とアレシスも同じ想いだ。
「勿論、おれたちもあなたを守る。決して、独りにはしない」
「きみが望むなら、ぼくはこの弓を賭けよう」
「ありがとう。――必ず、返してもらう」
弦義の言葉に、三人は頷いた。
その後お使いに行っていた白慈が合流し、次の町へと移動した。
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