第35話 手紙
野宿を含む四日目の午前、五人は道半ばにある小さな町に立ち寄った。
「ちょっと待ってて」
買い出しと宿を求めてのことだったが、アレシスは仲間と離れて何処かへ向かった。彼の背中を見送り、食料品店で商品を見ていた白慈が呟く。
「アレシス、何か用事?」
「昨日何か書いてる様子だったから、手紙でも出すんじゃないか?」
肉の塊を持ち上げた和世が、それに応じる。
和世によれば昨晩遅く、
「知人というと、亡くなったという昇矢さん関係か?」
近くの売り場で何となく乾物を物色していた那由他が問う。その問いに明確な答えを持っている者は、その場に誰もいなかったが。
当分の間の食料を買い、三人は弦義と馬が待つ町外れの廃屋に戻って来た。町には既に弦義の手配書が出回り、人相の悪いグループを幾つか見かけていた。そのために彼を馬の番にしたのだが、その間に弦義は馬を手なずけていた。
「ああ、お帰り」
三人の姿に気付き、弦義は苦笑気味の顔で手を振った。彼は自分が乗って世話をしていた馬にすり寄られ、その手に持っていた草をもう一頭に食べられている所だった。最後の一頭はといえば、弦義の背を頭で押して甘えている。
「モテモテだな、弦義」
「好かれないよりは良いけどね」
苦笑いを浮かべるしかない弦義だったが、ふと帰ってきた中にアレシスがいないことに気付いた。
「アレシスは?」
「多分、手紙を出しに……って、来た」
白慈が指差す先に、駆け足でこちらに向かって来るアレシスの姿があった。金髪の一つ結びが揺れる。
「お帰り、アレシス。手紙を出しに行っていたの?」
「ただいま、遅くなってごめんね。そう、この先の王都に知り合いがいるから、彼にこれから行くことを伝えたんだよ」
「知り合い……どんな奴なんだ?」
那由他に問われ、アレシスはふふっと小さく笑った。そして、そっと人差し指を口元に持っていく。
「秘密。行けばわかるよ」
「なんだよ、それ」
少し呆れ気味の那由他だったが、弦義はアレシスが手紙の宛名を隠す理由が気になった。もしかしたら、グーベルク王国の重要人物の中に知り合いがいるのではないかという勘繰りが働く。
(いや、止めよう)
行けばわかる、とアレシスは言った。だから、必ず答え合わせをする機会はある。それまで待とう、と弦義は仲間たちを廃屋の中へと導いた。
その夜、焚火の前で和世がペンを取っていた。眠り損ねた弦義は、その姿を見付けて後ろから近付く。
「どうしたんだ、弦義?」
「ばれたか」
「騎士であるおれにばれないと思うのか?」
くすくすと笑われ、弦義も「そうだな」と肩を竦めて笑う。それから、和世の隣に腰を下ろした。
「見張り、ありがとう。何をしていたんだ?」
「……国王への報告書。グーベルク王国の王都に着いたら出すように、と命じられているんだ」
この報告書に弦義は信頼に足る人物だと書く、と和世は笑う。銀髪が焚火に照らされ、赤っぽく輝く。
「……自分以上に他人を思いやる、優しくも強い王になるでしょうと報告するつもりでいるんだ。実際、おれはあなたに命を救われた。そのせいで何かあったらと思うと、今でも心臓が冷える」
「ありがとう、そんな風に思ってくれて。僕は……ただ寂しがりなだけだ。独りでいることが怖くて、誰かに傍にいて欲しくて、人を護りたいと思う。自分勝手な理由だろう?」
「だとしても、おれはあなただから
自嘲する弦義を肯定した上で、和世は断言する。
「これからは、おれや那由他、白慈、アレシスが傍にいる。だから、独りにはならない」
「男前だな、和世」
思わず照れ笑いを浮かべながら、弦義は焚火を見詰めた。パチパチと火花が散る様子を見ていると、不思議と力が湧いて来る。この力の元は、きっと仲間の存在だ。
これ以上ここにいれば、褒め殺されかねない。弦義は早々に退散することにした。
「僕は寝るよ。あまり根を詰めないでくれよ、和世」
「ああ。そうなれば那由他を叩き起こすんで、ご心配なく」
「あいつの機嫌が悪くなりそうだ」
寝起きの悪い那由他の顔を思い出し、弦義は笑みを浮かべた。
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