第35話【いのちの奇跡】

仕事が終わって病院へ急いだ。


我が子を最初に見たら「泣くのかな?」とか妻に対して「お疲れ様。ありがとう。」と言うのかな?と思いにふけながら電車に揺られていた。


しかし、予想とは全然違う我が子との対面だった。


まず最初に感じたのは、想像していたよりも3倍は小さかった。

そして、手から生える指。その指についている一枚一枚の爪。

頭から生える髪の毛。僕にそっくりの鼻。そのすべてに感動した。

「本当に生命って不思議だな~」と改めて感じた瞬間だった。


それから妻に声をかけた。

「おつかれさま。ありがとう。」


妻が入院している1週間ほど、家事のほとんどをできずに仕事に明け暮れた。

そうこうしているうちに、あっという間に妻と子が帰ってきた。

仕事をしながら家事をこなす人は本当にすごいなと身に染みて感じた。


それからはじまる育児生活。

これが本当に大変だ。


同じ方も多いと思うが、最初は夜泣きが辛かった。

仕事で1日約18時間外に出ていてほとんど寝ていないのに、夜泣きで起こされると「本当にお願いします。寝かせて下さい。」と懇願する。


そんなお願いも通用しないので、夜な夜な外に連れ出して散歩をすると不思議と泣き止んだりした。

そのときに自分にベタッと引っ付いて寝ている顔を見ると、仕事の疲れも本当に忘れられた。『かわいいなぁ。』夜泣きされてもいいか。と思ってしまう。


けれど、これが毎日続くのでその都度どうしてもイライラしてしまう。

これは何故なんだろうか。イライラしたらダメと思いながら泣き声を聞くとイライラしてしまう。

ついには泣き声さえ怖いと感じたことも何回もある。何が怖いのだろうか。それすら分からないけれど、体が怖いと感じていた。


それから3か月が過ぎたころ。

さすがに、疲労が限界に来ていたのか、またしても熱が出てしまった。

そして、それを機に掛け持ちのバイトを辞めることにした。


―子どもができてこれからという時に俺は何をへこたれているんだろう。


―このまま妻と子どもを養っていけるのか?


―いや、どう考えても無理だろ。あまりに不安定すぎる。


そして、仕事もまともにできなくなってきていた。


日の光を浴びるのが嫌になり、お風呂も1週間に1回。本当に頭はフケだらけで家中に僕のフケが落ちていた。

夜は活発で寝るのは朝。こんな生活が自分の体に合っていないと思っていてもどうしても夜眠りにつくのが怖かった。理由は分からない。


当たり前だが、仕事はいけるときに頑張って行った。

けれど、月に数回しか行けなくなってきた。

そのため、どんどん生活は困窮していった。


そして、ついに全く働かなくなってしまった。


―何をやってんだ俺は。


―どれだけ人を不幸にしたら気が済むんだ。


―クズだクズ過ぎる。


―自分に関わった人をみんな不幸にしている。


それからある【衝動的発作】も出始めた。

自分は全くそんな事を考えてもいない寝ているときに、ハッと起き上がる。

そこから急に血液中が【死にたい死にたい】と感じだし、動悸が激しくなる。

それを心で【死んだらダメだ死んだらダメだ】と呼び止める。

なんとも伝わりづらいのだが、血液の流れに沿って「死にたい」と

いう文字が脳に上がってくる感じ。としか説明できない。

これが本当に怖かった。


全く働かなくなった僕を見て妻が「私が代わりに働きに行く」と言って1歳に満たない子どもを保育園に預けて仕事に出てくれた。















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