自分との闘い編
第34話【想定外の話】
それから2,3日して仕事から帰ってきたとき由紀ちゃんが正座をして待っていた。
「なにしてるの?」と笑いながら僕が言う。
「話があるの。」
「ん?」
「聞いてもどこにも行かないでよ?」
「はい?どういうこと?」
「だから、私の前から居なくならないでよ?ってこと」
「いや、どういう話?それを聞いてなんで俺が出ていくの?」
「妊娠したの。」
この時あまりに唐突で、全く予想もしていない話でビックリしすぎて5秒くらい時間が止まった。
「マジで!やったじゃん!」
僕はめちゃくちゃ嬉しかった。
実は千秋と付き合っている頃に遡るのだが、僕は泌尿器科で精子を調べてもらったことがあった。
子どもができてもおかしくないなと思い当たることが何回もあったのに出来なかったからだ。
それは、僕が高校生の頃に妹がおたふく風邪にかかった事があった。
それが僕にも移ったのだ。
あごを開こうとするとゴムで強く引っ張られるような痛さだったが、身体がだるかった記憶はなく、確か2,3日で治ったので病院に行かなかった。
ところがその時に左の睾丸が右の睾丸の倍くらい腫れてめちゃくちゃ痛かった。
本当に歩くこともできない。少し触れただけで鈍い痛みで倒れ込む。
それを後に調べておたふく風邪で起こりやすい合併症の【睾丸炎】だったと知り、精子が死んだのではないかとずっと思っていたからだ。
「良かった。妊娠したって伝えて逃げられたらどうしよってずっと考えてた。」
由紀ちゃんは安堵からか涙があふれ出ていた。
「なんでそうなるの。ちゃんと育てるよ!」
「ありがとう。」
「こちらこそありがとうだよ。」
こんな適当に生きてきて、借金まみれで、家の事も出来ないしやろうとしないクズ男に毎朝毎晩ご飯を作ってくれて、風邪の時は仕事があるのにもかかわらず朝方まで起きて氷枕やタオルを変えてくれてた。
そのときから奥さんにするならこの人が良いなとずっと思っていた。
これからより一層頑張っていこうと決心した。
こうして、由紀ちゃんの親に挨拶へ行った。
由紀ちゃんの家も離婚をしていて母親だけだったが親戚が多かった。
親戚一同が集まってくれて盛大に祝ってくれた。
本当はちゃんとお付き合いを重ねて、結婚をしてから子どもを授かった方が世間体的には良いのかもしれないが、その考えはもう古いのかもしれない。
今は色々な出会い方や、考え方が受け入れられる時代になってきていると実感した瞬間だった。
それから数か月して予定日まで2週間くらいの時だった。
何を思ったのか、急に稼ぎが少ないのではないかと焦りだした。
そしてバイトの掛け持ちをするようになった。
お昼の15時から1つ目の仕事をして、2つ目の仕事が終わって帰宅するのが翌日の朝9時頃という生活をずっとしていた。
そして、2週間後に待望の赤ちゃんが生まれた。
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