第26話【いつも急に襲ってくる】

僕は毎日なにをしていたかというと、毎日散歩をしていた。


ここは、広大な緑がある場所で少し歩けば山も川もあり公園もある。

また反対方向へ行けば大型のショッピングモールもある。

だから、毎日いろいろな方向へ散歩に出た。


携帯を解約される前にダウンロードをした曲を聞きながら、空を見ながら川辺で寝ていた。


「こんな時のスピッツは刺さるな~」


【猫になりたい、日なたの窓に憧れて、君が思い出になる前に、正夢、夕焼け】


これが僕のヘビーローテーションだった。

この曲を聞いてると逃げ出したんじゃなくて旅人になれた気がした。

とてもいい気分になって嫌なこと忘れられて何時間も黄昏れられた。


僕は酒はやらないがタバコは嗜む。

だが、お金が尽きてタバコが買えなかった。


だから毎日同じ公園には必ず行っていた。

そこには灰皿があるからだ。そこでシケモクを拾って吸っていた。

誰が口を付けたかも分からないタバコだがこれが美味かった。

毎日の楽しみになっていた。


そんな僕の最悪の日。それは雨の日だ。シケモクがシケモクでなくなってヌレモクになっているからだ。

これじゃ、火が付かない。本当に憂鬱な日だった。


1度雨が降れば2日続くことも多かったし、1日で終わっても翌日もヌレモクで吸えない時も多々あった。


そんなある日の事、2人だけで行こうと真知子さんから外食に誘われた。

夜の外食はこっちに来て初めてだった。

そこは徒歩5分の小さな定食屋だった。

席について、注文も済ませたそんな時にアイツが来た。それは、腹痛だ。


なぜか、この頃から緊張したりトイレに行けない場面になると腹痛に襲われることがしばし多くなった。

それに、厄介なのが下痢気味なのだ。完全に水っぽい時もあれば、やわらかい時もある。耐えるに耐えられないのが辛い。


そしてもうひとつ厄介なのが、僕の性格だ。

男性トイレに多いのが【個室が1つ】のトイレ。


これでは個室に入れない。なぜなら幼少期から便秘気味だった僕は1回の大便が長かったからだ。

「もしかしたら、誰かが外で待ってるかな。並んでるかな。」なんてことを考えると排便に集中できない性格なのだ。

いくつも個室があれば『僕より先に入った人が出るだろう』と思えるから安心できるのだが。


「すみません。真知子さん!1度家に戻ってきます!」


何も説明せず、そして真知子さんの返事も聞かずに冷や汗をかきながら僕は走った。


「徒歩5分くらいだから、走れば1~2分か?とにかく落ち着け。」


もうすでに限界だった。その場でズボンを下してしゃがみこんだ。


「外で申し訳ない。すみません。」と思いながらも下着に付かなくてよかったと思った。


用を足し終わった後、街灯の明かりで自分の便を確認した。

そこはなんと!人の家の玄関の前だった。

全く気が付かなかった。


僕は慌てて家からビニール袋を何枚か持ってきて、手に被せて自分の便をつかみ処理した。


「まさか人の家の前でしていたとは思いもしなかった。本当にすみません。」と言ってその場を去った。


そして、残便感があったので再び家に戻り用を足してから定食屋に戻った。


「すみません遅くなりまして。」


そこに料理はなかった。


「大丈夫?どうしたの?」


僕は理由と今あった事を説明した。

人の家の前で・・・以外は。


「なるほどね。繊細さんだね!」と笑ってくれた。


「お腹すいてない?料理キャンセルしちゃったけど」


真知子さんは先に食べたらしい。僕はさらに待たせるわけにもいかないので「お腹の調子が悪くて食欲がないです。本当にすみません。」と言った。


「そっか。それじゃ、またの機会だね!」


こうして店を後にした。










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