第25話【絶望】

「今まで本当にありがとう。本当に本当に楽しかった。今でも大好きだよ。でも好きだけじゃ一緒に居られないんだよ。お金の事なんかじゃない。このままだと私まで壊れてしまいそうなの。ごめんなさい。もう連絡も取らないから。最後に少ないけどお金置いておくね。これで何か食べてね。―千秋」


千秋からの別れの内容の手紙だった。

悲しみのどん底だった。僕も本当に大好きで大好きで、結婚すると思っていた。

というより一緒に居ることが当たり前で、千秋の大切さを忘れていた。。


別れて気が付いた千秋の大切さ。


僕はもう好きな人なんかできない。これ以上の愛せる人はいないと思った。

18歳から22歳までの約4年間の付き合いだった。ありがとう。ごめんなさい。


『これからどうしようか。』


残金は千秋がくれた2万円。これで何とか生きなければならない。


そんな時、当時流行りのSNSがあった。そこで出会った一人の女性と頻繁に連絡を取るようになった。

彼女は僕よりも年が2回りほど離れていたが、とても綺麗な方だった。

彼女に今の生活状況を簡単に説明した。


「残金が2万円。家賃も払えない。携帯も止まる。」


すると「私の家に来る?」と返信が来た。


しかし、彼女との距離は途方もなく離れていた。

その距離なんと約800キロ。行った事もない土地だった。

お金は出してあげると言ってくれ、僕は行くことにした。


そして、1週間後に家を出た。

家財道具を全ておいて逃げた。

僕は、父も裏切った。

テレビ、ベッド、冷蔵庫、服や靴。そのすべてを残して父にも誰にも、なんの報告もないまま忽然と姿を闇に潜めたのだ。


それから彼女の元へ着いた。

「真知子さん、すみません。お世話になります。」

「いいのいいの!ゆっくりしていきな!自分のペースで仕事を探して飽きたら出ていけばいいんだから!」と、とても明るくポジティブな人だ。


お母さんみたいに温かみのある方だった。

だが、僕は知らされていない事実に直面することになった。


『ただいま~』


『お帰り~すず!』


『え?はい?ど、ど、どういう事ですか?』


『え、あ、言ってなかったっけ?私の娘よ!』と大笑いしていた。


お母さんみたいな温かみはお母さんだったからだ。


高校生の娘さんが居たのだ。

これにはさすがに参った。

会う前に彼氏の存在や、今の状況を真知子さんに何も聞いてなかった。

さすがに旦那さんは居なかったが、22歳の良い年の男が「金がないから居候させてもらってます。」のこの状況が、女子高校生を前にして恥ずかしすぎた。


それに向こうは青春、思春期ど真ん中だ。とうぜん目も合わせてくれなかった。

真知子さんはシングルマザーで娘さんが1人。あと【タロ】というかわいい犬が居た。

毎朝、誰よりも早くにおきてご飯の支度をしてくれて誰よりも早くに家を出る。

そして、帰ってきて家事をこなして僕にもご飯を出してくれる。


「本当にすみません。真知子さん。僕が居たらお金が余計にかかっちゃいますよ。」


「いいのいいの1人も2人も一緒よ!」と背中を叩かれながら言われた。


「ありがとうございます。」


あの頃の僕の目は死んでたと思う。

明日この世が終わるんじゃないかくらいの感じで。


―今頃出てきた家はどうなってるだろう。


―お金を借りていた人は怒っているかな。


―千秋は何をしているんだろう。


ちょうどそのころ僕の携帯は強制解約されていた。

















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