第24話【就職からの無職】
日雇いの仕事をしながらも順調な生活を送っていた。
そんなある日の事だった。その会社の正社員にならないかと話を頂いた。
こんなチャンスはないと思って「お願いします。」と即答した。
こうして21歳にして初めて正社員になった僕は千秋に報告した。
千秋もとても嬉しそうだった。
その嬉しそうな声を聞いて僕の方が嬉しくなった。
ある日帰宅してみると千秋が家に来ていた。
合鍵で先に入っていたようだ。
「おめでとう!」とクラッカーが鳴る。
「ありがとう。だけど大げさだよ。」と照れながら言った。
あの別れた時の事を思い出すと、申し訳なさと感謝が溢れでてきた。
社員の勤務は日雇いの何倍もしんどかった。
何も考えずに働いているのとは訳が違う。
いろいろと考えてしまう僕には体力的よりも精神的にしんどかった。
現場で汗水たらして働いているときの方が何倍も楽だった。
いざ営業をやってみると、相手の事を1日中考えてしまう。
イスに座り、パソコンを見て、みんなの給料を計算して、書類をまとめて、次の日の準備。
どうやら、僕はイスに座ってじっと何かをするのは性に合わないらしい。
朝は始発に間に合うように家を出ると、帰宅するときには21時や22時。終電の時も多かった。
そんなこんなで、借金を返済しつつ順調な生活が1年くらい続いた時だった。
僕の経験したことない繁忙期がきたのだ。
しかも、会社はこの時から見込み残業制になったので残業になることが多い僕たちにとっては相当痛手だった。
この繁忙期は始発で会社に向かい、運が良ければ終電で帰られるかなというくらい忙しかった。
ほとんどが会社で寝泊りで風呂は銭湯。洗濯はコインランドリー。
もちろん自腹だ。
これが2か月くらい続く。
当時の僕にはこれが耐えられなくて、また逃げ出してしまった。
色々な人に本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
会社の人にもちゃんとした挨拶もなく逃げた。
せめて挨拶だけでもしておけば良かったと今でも後悔している。
そのことを千秋にも伝えた。
千秋は「最近疲れてる顔してたからね。良かったんじゃない?また探そ!」と言ってくれた。
しかし僕は気力を無くしていた。
仕事もせずに1日中天井を見ていた。
夜になっても電気もつけなかった。
千秋からの連絡もずっと返さなかった。
「俺はもうだめだ。何をやってもすぐに逃げてしまう。」
2週間ほどして突然千秋が家に来た。
「連絡も返さないから、バイトしている時も、学校の時もずっと最悪の事を考えてしまう。何かあったんじゃないかって。生きてるよね?って。私もうしんどいよ。」
「ごめん」それしか言えなかった。
お金も底を尽きていて、ほとんど食事もしていなかった。
それから、これからの事を話しあった。
だが、しゃべる気力も聞く気力もなかった僕は、何を話したのか記憶にない。
「あれ、いつの間にか寝てた。ん?」
そこには手紙と2万円と合鍵が置かれていた。
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