第六話

 私は、この国の将来を担う者だ。父を失った今、父の跡を継いで判断を下すのは私だ。例え身内に裏切り者がいたとしても、正しい方へ導かなければならない。その裏切り者が自分の大好きな人だったとしても、だ。

「オルカ。あなたには何か作戦があるのでしょう?」

「ああ。陛下が亡くなった今、それを実行に移すべきだと考えている」

「それなら、私はあなたの意見に従うわ」

「だが……」

 オルカが躊躇ったように口ごもる。言わんとしていることは、分かっている。親子対決も同然な状況だ。でも、私には家族と同じくらいにこの王国に住む民たちも大切な人々なのだ。大勢の平和を守るのもこの王家に生まれた者の使命だと思う。何より、彼らの笑顔を失いたくない。

「お願い、オルカ。私に力を貸して」

 の手を握り、目をまっすぐに見つめる。背の高いオルカは私を見下ろした。その目はもう、幼い頃のように人を信用していない冷たい色をしていなかった。

「全く……。セイラには敵わないな。いつもお前のその真っ直ぐさに振り回される」

「え?」

「どんなことがあろうと俺が必ず、お前を守る。この手を離したりはしない」

「オルカ……」

 オルカがぎゅっと強く私の手を自分の手で包み込む。その手は、私より大きくほんのりと温かかった。

「俺はお前の騎士ナイトだ」

 の言葉に思わず、むっとする。

 その時、私は自分の気持ちに気付いてしまった。私にとって、オルカは対等な立場として傍にいてほしい、そしてかけがえのない大切な存在なのだ。に守られているだけの王女のままでいたくない。

「いやよ」

「セイラ?」

「私はいつまでも守られている女の子じゃないわ。あなたの足を引っ張るのだけは、いやっ」

 オルカは困惑したような表情を浮かべる。私の言わんとすることが分からないようだ。

「もうっ。私はあなたのことが好きなの。だから、私の前に立つ騎士ナイトとしてじゃなくて」

 そこまで一気に言って、呼吸を整える。

 普段あまり表情に変化がないオルカが目を見開き、驚いている。その姿を見て、少ししてやったりという気になる。

「私の隣に立って、一緒にこの王国を守るために戦ってほしいのっ」

 最後まで言い切ると、オルカが目をしばたたかせて、しばし沈黙した。自分の言われたことを脳内処理しているようだ。

 しばらくして理解したのか、頬を赤らめて反論が返ってきた。

「い、いや、しかし! 俺はだぞっ!?」

「だから?」

「だ、だから……」

「私は、を好きになったの。それが女の子だったってだけでしょ?」

 私の言葉に反論できずに、口ごもるオルカ。やがて、苦笑を浮かべて顔にかかった髪をかき上げる。

「本当に……セイラ、お前には敵わん」

 その時、どこからともなく風が吹いたような気がした。ここは水の中。そんなことはあり得ないはずだが、きっと私の心の中がそう思わせたのだろう。

 私はと出会って、初めて思いっきり愛おしい人に抱きついたのだった――――。

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永久の恋風 玉瀬 羽依 @mayrin0120

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