第五話

「セイラ、落ち着いて聞いてほしい。今から話すことは、陛下からの願いでもある」

「お父様の願い……?」

「この王国をセイラ、お前に跡を継いで欲しいと陛下が俺に言伝を残していった」

「え……?」

 オルカの言っている意味がすぐには理解できず、困惑する。だが、オルカはそのまま話を続けた。

「最近、王国で起きている異変にセイラは気付いていたか?」

 オルカの質問に、私は首を縦に振る。何となく水の流れが変わった気がして、密かに自分の特技である超音波を使って、情報を集めていた。

 私たち人魚は、水族の特有の音を聞いたり、発したりすることができる。特に私は、超音波を自在に扱い、別の言語を話す水族とも会話ができる特技があった。

「薄々、外で何かが起きていることは感じていたわ。城の者は、誰も何も教えてくれなかったけど」

「そうだ。王の力が弱まると同時に、水族同士の争いが増えた。その王の力が弱まったのも誰かの手に寄るものではないかとは考えていた」

?」

 オルカの話に必死に頭を働かせる。亡き父の代わりに王国を指揮する権力があるのは、妃である母のはずだ。けれども、父は何故か母ではなく、私に継承させようとしていた。一体、父は何を考えていたのか。父の真意を探ろうとオルカの一言一言に神経を張り巡らす。

 どのみち母は今、ショックを受けて正常な判断はできないだろう。ここは、娘である私がしっかりしなくてはいけない。

「実は今、国は革命軍と反勢力軍の二手に分かれている。陛下に従う側が革命軍で、俺はそっち側の人間だ」

「そんなこと、初めて聞いたわ」

「国の中でも極秘の話だからな」

 初耳のことが多く、頭が混乱しそうになる。

 オルカが話を続ける。

「そして、その調べで分かったのが、深海水族が反勢力軍の中心になっていることだ」

 その言葉に思わず、オルカの顔をまじまじと見つめる。一瞬だけ、が苦し気な表情をしたように見えた。本当にほんの一瞬だけ。

 だが、オルカは何事もなかったかのようにいつもの無表情に戻ったので、気のせいだと思い、私も特には触れずに話を繋げた。

「さっき襲ってきた、あの人たちも……」

「ああ、深海水族だ。そして、その親玉が」

 そこで初めて、オルカが口ごもった。言いにくい相手なのだろうか。

 不思議に思いながら、考えを巡らしてみる。今まで聞いた話やオルカの父の亡き姿を見た時の様子から、もしやとすぐにに思い至ってしまった。

「ま、まさかっ?」

 オルカはゆっくりと首を縦に振る。

「――――セイラの母君だ」

「うそよ……」

「信じられない話かもしれないが、事実だ」

 オルカの冷たい声が部屋に響く。私は気持ちが追い付かず、何も言えなくなる。淡々とオルカの説明が続く。

「陛下が急変したのも妃と一緒にいる時だった。そして、今回も妃が関わっている。十分に怪しい動きをしているのだ」

「そんな……」

「恐らく、彼女の裏で糸を引いている者がいるのだろう。彼女は、それに従っているだけかもしれない」

 オルカの言葉が頭の中で木霊する。

 


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