第33話 律華③と、とある影

「あ、ちゃんと見たよ。金髪をしていて星の髪留めをつけてて、目が紫の人で合ってるよね?」

「そうそう! で、どうだった? 面白かった?」

「Vチューバーを見たのは初めてだったんだけど、面白かったよ。時間の関係で一時間くらいしか見ることできなかったけど、楽しそうにゲームしてるところが印象的だったかな。これは贅沢は話になるけど、一緒にゲームをしたいなって思ったくらいで」


 修斗がユーチューブを開いた時、タイミングよくマインクラフトというゲームをしていた七星桜だったのだ。

 その時の視聴者数、同接は3万人を超えていた。想像ができないほどの人数が彼女の配信を見ていた。

 コメントも早いスピードで流れていた。


「チャンネル登録者さん100万人もいたからあまり意味はないと思うけど……応援の意味も込めて登録もしておいたよ」

「ありがと! って私が言うのも変だけど、一応言っとく。桜ちゃんの声も可愛かったでしょ?」

「うん。それでいて聞き取りやすかったよ。視聴者のことを考えて設定とかも変えてたりしてさ」

「優しさ出てるよね。みんなと一緒に楽しみたいー! みたいな。そんなところも好きなんだよね」

 推しの配信者が褒められ、嬉しそうに微笑んだ律華。

 ニヤニヤとして声を弾ませているが、……次の瞬間に毒を吐いた。


「でもさ、ゲームめっっっちゃ下手っぴだったでしょ? アクションゲームを主にしてるんだけど、ヤバかったんじゃない?」

「あ、あはは……。それはもう数えきれないくらい死んじゃってたかな。なんか頭が三つあるモンスターに街もろとも蹂躙じゅうりんされてたよ」

「ぷっ、その配信私も見てたんだけど」

 修斗の言葉選び、そして同時に配信を見ていたと知って律華が吹き出した途端だった。


『ガタッ』と椅子を引く音。

 立ち上がる隣の客、おさげの白髪を持った女の子は顔を真っ赤に……。気のせいか、頬を膨らませてトイレに向かっていった。


「ねえ、お兄さんは気づいてた? 今お手洗いにいった女の子が私たちのことチラチラ見てたこと」

「え? そうだった?」

「Vチューバーの話をした時くらいからだね。だから多分、あの人も七星桜ちゃんのファンだと思うよ」

「実際、登録者が100万人もいればその可能性は十分あるよね」

 律華の言っていたことが本当に当たっているのなら、少なくとも七星桜を知っている人物なのだろう。


「さっきの女の子、中学生から高校生くらいの見た目だったけど、その年代でもVチューバーって流行ってるんだ?」

「めっちゃ流行ってるよ。学校の中でも見てる人がいるくらいだし」

「へえ、本当凄い人気なんだね」

 理容中、客が話題に出すはずだと納得する修斗。話題についていくためにも広く浅く調べておこうと決めた瞬間である。


「ちなみに、お兄さんは気になる? 桜ちゃんの容姿について」

「えっと、言い方は悪いけど中身ってこと?」

「そうそう」

「なにか知ってるんだ?」

「ふふーん。まあね」

 得意げな顔。教えたそうな顔をしている律華を見れば、『大丈夫』なんて選択肢はなくなる。


「どんな容姿なの? 七星桜さんの容姿は」

「お兄さんと同い年の22歳らしいんだけど、他のライバーさんいわく、かなり童顔で可愛いらしいよ。それこそ中学生とか高校生と勘違いするくらいなんだって」

「へ、へえ。それ凄いなぁ。俺と同い年なのにチャンネル登録者さんが100万人もいるなんて……」

「お兄さんも十分凄いけどね? 最年少で働いててめっちゃ人気なんだから。コンテンツが違うだけだよ」

「あはは、そう言ってもらえると嬉しいよ」

 上手なフォローを入れてくれる律華に感謝を伝える修斗。

 そんな時、先ほどお手洗いにいったお客さんが戻ってくると……一瞬だけ視線が絡む。

 くりくりしたピンク色の目と。


「ま、いっぱい死んじゃっても楽しそうにゲームするから人気があるんだろうね。桜ちゃんの配信見ると元気もらえるもん」

「一緒にゲームがしたいって思うのも、そんな要素も関係してると思うな」

 今度は褒めの話題に転換した。


「……なんて言うか、人気になればなるだけ誹謗中傷の内容も多くなるだろうけど、気にせずに楽しんでくれると嬉しいね。たくさんの人を楽しませられるって本当に凄いことだしさ」

「いいこと言うじゃん」

「これ思ったんだけど、案外『ゲーム下手っぴ』って言葉が一番傷ついてたりするんじゃないかな……」

「それが桜ちゃんのいいところだし、ポジティブに捉えてるような気がするけど……どうだろうね?」

 実際のところ、七星桜は元気をウリにしている。それをキャッチコピーにしている。

『ゲームが下手っぴ』ということをウリにしているわけではない。ほとんどの視聴者が勘違いしていることであった。



∮    ∮    ∮    ∮



 その日の夜。

 ツイッターのフォロワー数が75万人。公式マークがついた七星桜のアカウントには二つの投稿がされることになる。


『ヤバい! うちの配信、うちの知ってる有名人さんも見てくれてるみたい!』


『今日、コーヒーショップでうちのこと話してくれてるカップルさんがいた! ゲームが下手くそって言葉は聞かなかったとして……嬉しい言葉を本当にありがとう!』


 偶然だろうか。このような内容が呟かれてることになるのだった。

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