#退職した総務部長の話

「こんばんは、クリス米村です。


リスナーのみんなは、元気か?


オレは今日、元気がないんだ。


どうしてだと思う?


何もかも手に入れたといっても言い過ぎじゃないくらい、すべてを手に入れたラジオDJ。


オレの前では、扉という扉、ドアというドアが片っ端から自動ドアみたくパッカーーーンと開く、このオレにも、心の痛むことがあるんだ。


気になるなら教えてやろう。


事務所にいるスタッフでさ。


なんだろ、『総務部長』っての?


雑用係的な感じの仕事をやってたオッサンが、退職することになって。


その人は事務所の昔からの社員だから、デビューしたてのオレを知ってるわけ。


ただの大学生だったオレの姿を知ってる、貴重な人間なんだよ。


でも、言っとくけど、オレはその人のことが好きではなかった。


まあ、もともと性格の悪い人間だったのは確かだ。


所属してるタレントの中には、がんばったんだけど結果が出なくて、残念ながらクビにしなきゃいけないときって、あるじゃん。


そういうときに、クビを言い渡すのは、その人の仕事だった。


普通なら、つらい場面さ。


だけど、あの総務部長は、どうも喜んでやってたみたいなんだよね。


クビ宣告の瞬間に、その場にいたマネージャーによると、泣いてる女の子タレントの前で、わざとらしく弁当を食い始めたりするらしいんだ。


「うまい、うまい」とか、言いながら。


腹が減ってたのかもしれないけど、ちょっとありえないだろ。


まあ、それくらい性格の悪い人間で、大嫌いだったんだ。


とはいうものの、オレ自身についていうと、ある程度は世話になった。


そりゃそうだろ。


だってデビュー直後で、右も左も、上も下も、表も裏もわからないんだぜ。


面倒くさそうな顔をしながら、二十歳そこそこのガキにあれこれ教えてくれたよ。


そのことについては、感謝してないこともない。


とにかく、そんな感じだったんだけど、今月の上旬で辞めたんだ。


もちろんこういう時期だから、送別会はしなかったらしい。


事務所の社長は、感謝の意を込めて、けっこう高価なお皿を部長にあげたみたいだ。


総務部長は骨董品がお好きなんだと。


な、骨董好きって、いかにも性格悪そうだろ。


まあ、それはいいのさ。


ここからが本題だ。


送別会をしないって連絡が来たのは、総務部長が辞めたあとだったんだ。


というか、総務部長が辞めるっていう連絡自体、辞めたあとにもらったんだ。


総務のスタッフに聞いたら、「部長が言うなって、言ったんですよ。『オレは嫌われてるから、送別会を開いたって、誰も来ない。最後に恥をかかすな』って、言われまして」って。


おいおい、めちゃくちゃベタにサプライズチャンスじゃないか。


「嫌われてると思ってたけど、こんなに温かく送り出してもらって……」みたいなシチュエーションになる、せっかくのチャンスだったのに……


マジで、何をやってんだ!


鬼の目に涙を流させることができたかもしれんのに!


まったく使えないスタッフだよ。


というわけで、今夜の1曲目は、部長に捧げよう。


部長はこのラジオ、意外にチェックしてるんだ。


あんたにだよ、よく聴け。


『イヤなやつを演じてるつもりかもしれんが、ほんとのあんたもイヤなやつだ、うぬぼれるな』


     ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

教訓👉クリス米村も、骨董品をプレゼントするようです。




♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

ラジオ品川 99.92FM

Navigator クリス米村

『クリス米村のGO❗️GO❗️レインボー❗️〜今夜もパーリーしようぜ〜』

毎週木曜ほぼ21:30〜恋人たちが眠るまで







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る