#ご老人からのお便りの話【1話完結!スーパー短編】




「こんばんは、クリス米村です。


いきなりこんなこと言うのもなんだけど、『こんばんは』って言いたくないな。


だって『こんばんは』って、いかにも夜の挨拶って感じがするだろ?


1日の終わりって感じがするんだよな。


今は夏だぜ。


夜は、むしろ1日の始まりだ。


そうだろ?


というわけで、今夜もはりきっていこーー!


まずはハガキをチェーーーーック!


ふむ。


『鹿児島県 夢見るおじいちゃんじゃいられない 98歳』


すげーな。


光栄だよ、まったく。


頼むから、ハガキを出したときは生きてたけど、もう亡くなったとかはやめてくれよ。


鹿児島へ、お墓参りに行くわけにもいかないからな。


ブラックはこれくらいにして、と。


どれどれ…


『拝啓


蝉の鳴く猛暑の季節になりました。


クリス米村様におかれましては、いかがお過ごしでしょうか。


ラジオより知れるご活躍のほど、心よりお喜び申し上げます。


つい先日のこと、クリス米村様のご発言の中に、高校時代の逸話が語られたと記憶しております。


小生の高校時代といえば、まさに戦時中、生きるか死ぬかの毎日で、今の若人には想像もつかないでしょう。


小生も何度となく死の淵に転落しかけましたし、戦地へ行ったきり、二度と会えなくなった友もおります。


今でも悲しい思い出に、涙がこぼれます。


年寄りの昔話はこれくらいにして、ハガキを差し上げたのはほかでもありません。


じつは小生、100歳を目前にして、ラジオDJになるという夢をいだいている所存です。


孫を含め、一族全員が応援してくれており、是非とも実現したい。


つきましては高校卒業ののち、クリス米村様がどのようにしてラジオDJデビューへといたられたかを、お聞かせ願えませんでしょうか。


是非とも参考にしたく、お便りを差し上げた次第です。


アラハンドレッドの年寄りの願い、なにとぞよろしくお願いいたします。


末筆ながら、ますますのご健勝とご多幸を、お祈り申し上げます。


敬具』


なるほど…


98歳で、「アラハンドレッド」って…


なんてコメントしたらいいかわからんが。


とりあえず、お便りをくださったことに、感謝します。


ありがとうございます。


誠心誠意、答えさせていただきます。


えー、デビューのきっかけですが、とってもシンプルでして。


スカウトです。


ほんとの偶然ですけど、ある日、電車の中で大学のサークル仲間としゃべってて。


マジ、たわいもないことを。


あの子がかわいいとか、今度どこ飲み行くかとか、あいつがさあ、とか。


あ、「マジ」とか若者言葉、わかります?


とにかく、電車の中でしゃべってて、住んでたアパートの最寄駅で降りたんです。


そしたら、変なオヤジがいきなり話しかけてきて、いい声してるからスカウトしたいと。


最初、なに言ってんだと思ったけど、ちょうどバイト探してて。


それに、話しかけてきたオヤジが、帯状疱疹が治ったばかりらしくて、ひどい顔してたんです。


ほっぺにデカいアザができてて。


なんでだろうな。


自分でもわからないけど…


まあ、やってみるかって。


そこからすべてが始まったんです。


マジの偶然。


そう、思い出すな。


あのとき、あのオヤジと同じ電車に乗り合わせなかったらとか、あいつが帯状疱疹にかかってなかったらとか、たまに思うんだ。


だけど、そういう運命だったんだろうなって。


良かったのかどうかは、まだわからないけど、あのオヤジにとっては、間違いなく最高の出会いだよ。


だってあいつ、オレのおかげで、今じゃビリオネアだからね。


たまに、「また帯状疱疹にかからないかな」って、言ってやがる。


バカも休み休み言え。


ほんと。


まあ、オレのデビューはそんな感じ。


おじいちゃん、参考になったかい?


98か。


半分、仏だな。


じゃ、曲だ。


昔話をしたんで、あの頃に流行ってた曲にしようか。


タイトル長いし、ろくな曲じゃないがな。


聴いてくれ。


『あの頃に帰りたいと言うヤツがいるが、帰れるわけないのだから、さっさと次行け』


   ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

教訓👉おじいちゃんは、次の世界へ行かない方がいいかも。笑



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ラジオ品川 99.92FM

Navigator クリス米村

『クリス米村のGO❗️GO❗️レインボー❗️〜今夜もパーリーしようぜ〜』

毎週木曜ほぼ21:30〜恋人たちが眠るまで

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