26 少年の持つ一筋の光。
俺の前後で声が響いた。
「裕二!? どういうことや!?」
「お兄ちゃん!!!!」
*
それは宣告そのものだった。
沙恵が来ることによって写真の事実は動かぬものとなり、証拠という基盤を得た疑いは真実へと変貌する。
「あ……あ、やめ……」
もはや止められなかった。
立ち尽くすことしか出来なかった。
前後から聞こえる駆け足の音をただ聞くだけだった。
だが、でも、しかし。
親友の声があった。
「裕二!! 何があったんや!!」
「来るなよ!!!!!!」
「え……」
思わず叫んでしまった。
唯一の友達に向けて矛を向けてしまった。
自分で口に出してから、初めてその意味を理解する。でもこれで合っているのだ。
俺に駆け寄ろうとしていた『親友』は静止していた。まるで石化したみたいに。
「被害を受けるのはお前らもだろ!! だから近づいて来んなよ!!!!」
「お前に何があったんかは知らんけど、とりあえず落ち着こうや。な?」
「落ち着ける訳ねぇだろうが!!」
この期に及んで『親友』は優しさの手を差し伸べようとしてきた。でも、内心は思っているはずだ。こんな俺に失望したはずだ。
差し伸べる手さえも、もはや社交辞令のようなものに過ぎないのかもしれない。
「裕二…………」
俺は親友の顔さえまともに見られなかった。
だから俺はこの空気から逃げるように言う。
「いいから……もう帰れよ。生徒会の仕事終わったんだろ」
端谷の顔が曇る。こんな彼は見たことがなかった。どうせ失望の顔だ。俺なんて、そりゃ周りから見ればただのクズだ。
俺も全てを諦めて帰ろう。
と、その時だった。
「裕二ッッ!!!!!!」
後方からもう一つの声があった。
女性の声が、俺の下の名前を呼んでいた。
その声に引っ張られるようにして振り向く……間もなかった。
刹那。
俺の頬に強い衝撃が走った。
*
鈍い痛みが頬を這う。瞬間。何が起きたのか分からなかった。ヒリヒリとした感覚が消えないまま、俺は顔を上げる。
そこには
「おい!! お前が私の兄貴ってこと絶対認めねえからな!! 誰よりも友情を大切にして、私の友達関係の問題を解決してくれた、友達想いの兄貴が。絆だの友情だの説教してた、あの兄貴が。たった一人の親友の気持ちさえ分からねえ奴のはずなんかねぇだろうが!!!!!!」
胸ぐらを掴まれて、息がかかる程の至近距離に顔を近づけて。今まで見たことのない、凄みの含んだ表情だった。
「がっかりしたよ!! 兄貴だったらこんな事で心を曲げたりはしねぇって思ってたのに!! お前はそういう奴じゃねえだろうが!! 自分を貫き通せよバカ兄貴ッッッ!!!!」
中学生に掴まれて、怒鳴られて。それでも声は出なかった。目から溢れんばかりの
トドメを刺したのは『親友』だった。
「裕二。俺達ってそんな信用のない仲やったんか? こんな紙きれ一枚で切れるほどの縁でもないやろ」
それは何気ない顔だった。
いや、半ば呆れたような顔だった。
中学生に足し算を教えて、こんな事も出来ないのかとため息をつくような。そんなレベルの顔だった。
つまり。
俺は一周遅れだったのか。
当たり前の事実がそこにあって、でも目が眩んで見えていなかったのか。
『大切なもの』
基本の中の基本。
忘れてはならないことがあった。
だがもう、ここで理解した。
俺の『日常』は崩れやしない、と。
ならば言うべきはたった一つ。
俺は『親友』から差し伸べられた手を取った。
この手は二度と離さない。
自分だけの盲目の世界に閉じ込められたりはしない。
すなわち。
「ありがとう」
やっと分かったか、という顔だった。
親友と妹は、クシャクシャの笑みを浮かべて、
「「いいんだよ」」
それ以外は必要なかった。
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