18 こんな美少女聞いてない!!

 この俺ボッチ高校生の加藤裕二は、『兄貴自慢大会』と評した集まりを開くことになった。一度、俺の目標を確認しておこう。


 ――遊びに来る『兄貴』と友達になり、ボッチを回避すること。


 ふっ、心配するな。俺は確かにボッチだが、友達が出来ない訳ではなく友達を作っていないだけなのだ。つまり友達を作ることなんて造作もないこと。そう、そういうあれなのだ。だから決して緊張したりする訳がない。する訳がないんだからね!!



 午後二時。

 俺が飲み物を買ってコンビニから帰ってくると、玄関には見覚えのない靴が何足か置いてあった――。



「あ! もしかしてあれが裕二くんなの?」


 リビングに入って開口一番にそう叫ばれた。俺はドキリとした。それはそうだ。

 に声をかけられたら誰だってドキリとする。


 ソイツは碧眼へきがんのクリクリした目で俺を見つめてくる。


 ……流石に、このファンシーな状況に俺は思わず顔を引きらせた。


「き……君は、だれ……でしょうか?」


 メイドを彷彿ほうふつとさせるような格好のソイツは、中腰になって、こちらを覗き込みながら、


「私は、姫木ひめきって言うの! 白翔はくしょう 姫木ひめき。よろしくなの〜!」


「あ……えと、姫木さんか、よろしくな」


「お兄さんに名前呼ばれた! 嬉しいの〜♡」


 何やねんコイツ。何か微妙に語尾がおかしいし。声のトーンが上下しまくってて、ちょっとウザイ。そういうキャラが許されるのはラブコメヒロインだけだ!! コイツはラノベを舐めてやがる。はたしてこの姫木というやつがラノベを読むのかはさて知らないが……。


 と、ここまで辛口で評価してきたが。

 俺は男なので。


 ――――可愛い……。


 これに尽きる。

 いくら喋り方が独特でも、現実ではありえないロリータ服を着ていても、全てチャラだ。おまけに金髪碧眼ときた。属性てんこ盛りではないか。この子に惹かれない男など男ではないレベルだ。


 ……今ここにいるということは姫木も誰かの妹だということ。正直言って破壊力が凄まじい。いつまでも見つめていたい。


「お兄ちゃん? その金髪のこと、見すぎじゃない?」


 おとぎ話に出てきそうな姫の奥から、鬼の形相でにらんでくる沙恵の顔が見えた。


「ひぇっ……」


 これは何かの間違いだ……。

 こんな可愛い妹さんが出てくるなんて聞いてない! 反則だよ!


「何が反則よ!!」


 心を読まれた!?


「流石は我が妹!! 誇らしいよ。俺の考えることをズバリ当てるなんて」


 棒読みで苦し紛れに沙恵を褒めてみた。

 もちろん、これで沙恵が静まる訳ではない。彼女の様子を見るに察して、焼け石に水と言ったところか。


 沙恵は蜃気楼しんきろうのように体を左右に揺らしながら、無言で近づいてくる。

 前にもこんな状況になったことがあったが、今回は違う。殺気がある。彼女の体の周りには黒いモヤが渦巻いている。


「沙恵!! 一旦話し合おう!! 俺だって男だからさ! 仕方ないだr」


 珍しく。

 俺に向けて、沙恵の不良部分が炸裂さくれつした。



 気が付くと、俺はリビングのフローリングに横たわっていた。明滅めいめつする意識をふるい立たせると、スイッチが切り替わるように五感を取り戻していく。


 声が聞こえた。男の声が。


「どうも、僕は姫木の兄、白翔はくしょく 光輝こうきです。よろしくお願いします!」


 妙に爽やかな声。俺はすぐさまに体を起こして、フラフラと音源に目をやる。

 俺は、光輝という男を捕捉すると驚愕きょうがくした。妹の姫木からは考えられない見た目。


 何色にも染まっていない黒髪。

 男性アイドルに居てもおかしくない程に整った顔立ち。誰をも貫く黄金の笑顔。


「光輝……さん? 姫木さんの、兄ですか……」


「そうですよ! 妹がこんな見た目なんで、全然似てないって言われるんですけどね。あ、姫木の金髪碧眼はただ単に、染めたりカラコン入れたり……ってしてるだけなので(笑)」


 ま、まぁ……そうだよな。


 なぜこんなに悲しくなるのだろう。

 天然の金髪碧眼の方が珍しいのに。

 これがあるべき結末なのに。


 ……悲しみにふけっていると、イケメン光輝は、俺の顔を覗き込むようにして言った。


「裕二さん、ですよね。帰り道でよく一人で帰っているのを見かけますよ!」


 悪気が無いのは分かっているが満面の笑みで言われるとムカつくな。俺の痛い所を突きやがって!!


「あはは。そうなんですか〜、ってことは光輝さんも俺と同じ小野ヶ丘おのがおか高校ですか?」


「……違いますね。僕はかなり遠くの学校に通っているので」


 ということは、俺のボッチ回避作戦は実行できない……。違う高校の人と友達になっても関わることが少ない……。

 リビングを見渡しても、『兄貴自慢大会』に来ているのはこの二人だけ。


 撃沈である。


 ……そこから会話は続かず、時の流れに不自然な空白が生じた。これが俺に友達ができない所以ゆえんである。


 その違和感に気付いたのか、沙恵は大きく声を張り上げて、


「今日は楽しみましょー!」


 かくして『兄貴自慢大会』は幕を開けた。



 沙恵の部屋へと移動する最中に、俺はこっそり我が妹に声をかけた。


「ヤンキーモードじゃなくていいのか? お前、ヤンキーの友達を呼んだんだろ」


「あぁ……姫木ちゃんもね、私と同じだったから」


「怒りっぽい所とか?」


「違うよ!! 最後まで話聞いてよね!」


「確かに、沙恵と違って姫木は温厚そうだもんn」


「姫木ちゃんもね、家では普通の女の子なの。外ではヤンキーをしているけどね」


 俺を無視して割り込むように沙恵は話を続けた。

 一方通行じゃねぇかクソ!! だが俺はモテる男(予定だが) 当然、空気を読むことができるッッ!! 今更遅い? それは言わないでおくれ。


「だから姫木を呼んだのか」


「そうだよ。心置きなく話せるからね」


「……呼んだのは姫木だけか?」


「由香ちゃんも遅れて来るよ。お兄ちゃんが手を出した由香ちゃんがね!!」


 いやいや怖い。語尾を荒げないでくれ。あれは全くもって誤解である。それは沙恵も分かってくれていると思ったのだが……。


 と、ここで沙恵の部屋に到着した。

 全員が部屋へ入ると少し窮屈きゅうくつに感じる。元々一人部屋だったから無理もない。ここに由香と、その兄が来るのか。その時はまた別の遊び場所を探した方が良いかもしれない。


「みんな〜! 姫木ね、人生ゲーム持ってきたの〜! もし良かったらやらない?」


 まぁ、今はこの時を存分に楽しもうか。

 友達と遊ぶなんて、心が踊る。

 何気に、昔から友達が少なかった俺は初めての経験だった。だから全力で遊び尽くすしかない。


「よし、皆でやるか!!」

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