9 俺に出来ること

 友達を信じて、本当のことを打ち明けた。

 なのに、迎えた結末は刺すように冷たい。


『そんな人だとは思いませんでした』


 俺は、俺は。

 どうすればいいのだろう。


 正直、大したことはないと思っていた。

 不良が偽りだと打ち明けても、その程度のことで仲が悪くなる訳が無いと。


『触らないで!!』


 どれだけ考えても、答えは出てこない。

 思考はただただ、暗闇の中を彷徨うだけ。


 だが、悲しいかな、時間は刻一刻と進んでいく。結論が出るまで待ってはくれない。


 明日は、やってくる。





 由香が家に来てから、次の日の朝。

 昨日の出来事が頭に張り付いたまま、俺は学校を目指す。


 今朝、紗恵に何か声をかけてやろうと思ったが、一向に部屋から出てこない。


 扉をノックしても「今日は休む」と平坦な声で言われ、それっきり返事はしてくれなかった。


 学校に到着して、授業が始まる。

 当然、内容は頭に入ってこない。


 紗恵に対して何をしてあげられるか。


 それしか考えることはできない。

 だが、特にいい案が浮かんでくるわけでもない。


 ……本当のことを打ち明けて、それを拒絶されてしまえば、覆すのは困難だ。

 どうにかしないと……。


「裕二ぃ? そんな暗い顔して、どうしたんや」


 いきなり話しかけられて驚いた。

 いつのまにか授業は終わっていた。

 そこで、いつまでも席に座って難しい顔をしている俺を見て、友達の端谷が声をかけてきたのだ。


「ん? いや、なんでもねぇよ」


 別に、わざわざ何があったかを話す必要はない。

 紗恵のことを勝手に話すのは、流石に気が引ける。


「大丈夫なんか? 明らかに浮かない顔してるけどな〜」


「ちょっと寝不足でな。だから、静かに寝かせてくれよ」


 嘘をついた。いや、夜中まで考え込んだせいで寝れていないから、事実ではあるか。

 とにかく、適当に濁して……。


「でもなぁ、」

 端谷はいきなり真剣な顔をして、俺に話しかけてくる。


 声は優しくて、諭すように。

 だけど、とても頑丈で、芯があるように聞こえた。


「もし何か悩んでるんやったら、今のお前は最悪やな」


「何がだ?」


 的をつかれたようなその言葉に、思わず食いついてしまう。


「おっ、反応するってことはやっぱり何かあるんやな?」


「違ぇよ。……ちなみに、何が最悪なんだよ」


「悩み事がある時には、思い詰めるんやないで。


「……お前、そんなこと言うキャラだっけ?」


「お前がいつにも増してヒドイ顔してたからなぁ」




「視野を広く、か」


 帰り道にて、俺は端谷から言われた言葉を思い返していた。


 その場では軽く流したが、端谷の言葉は俺を強く揺さぶった。


 視野を広く持つ……。


 俺は、昨日の出来事を最初から思い返すことにした。



『お邪魔します』


 それから、部屋に入って……。


『あれ? 先輩の部屋ってこんな可愛いんですね』


 ……ん? 紗恵のファンシーな部屋を見てもそこまで驚いてはいなかった。


 紗恵が不良であれば、あんな可愛い部屋になるのはおかしい。


 それでも由香が驚かなかったということは……。


「由香が怒ったのには、何かがある!!」


 我ながら名推理じゃーん。


 だが、それが合っているかは分からない。

 由香に直接聞かなければ。


 なぜ早くそうしなかったのか、自分が不甲斐なくなる。


 ……やるべき事はできた。

 後はそれを実行に移すだけ。


 由香が、本当に不良ではない紗恵が嫌いなのであれば為す術はない。

 だが、何か他にあるはずだ。


 友達がいないボッチの俺が言うのもなんだが……。


 友情は、そう簡単に切れたりなんかしない。



 明日、由香の家に行ってみるか。



 気分はスッキリした。悩むことはない。

 明日には全て分かるのだから。

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