7 決定!


『本当にそう思うか?』


 言った瞬間、紗恵の動きが止まった。それから......。

 長い時間が経過した......気がする。


 紗恵は眉間に皺を寄せながら、虚空を見つめている。......顔が可愛すぎるので全く怖くない。


 長い沈黙の末、痺れを切らした俺が口火を切ろうとした瞬間、紗恵は顔を上げた。


 耳......いや、頬までも朱に染めている。

 焦り、不安げな表情。


 時間の流れすら分からなくなるほどに静寂が立ち込める、この時に。

 彼女は何を考えたのだろう。


 どうした? そう俺が聞く前に、紗恵は口を開いた。静寂という名の糸が切れる。時間の流れが戻る。



『本当のこと、話して......みようかな』



 とても、小さな声。ちょっとした雑音でかき消されてしまいそうなほどに。


 だけど、それを掴んだ。


 促したのは俺とはいえ、これは紗恵が決めたことだ。全力で応援する。協力する。


 目は涙で潤い、心配そうに俺の返事を待つ紗恵。


「(俺に出来る、一番最初の協力......)」


 今の紗恵にやってあげられること。

 今、紗恵が一番欲しいのは。

 

 ......。


 紗恵のすぐ折れてしまいそうなほど頼りない囁きとは真反対に、力強く。

 真っ直ぐに『俺の妹』を見据えて、

言い放った。


「勇気出せよ、大丈夫だ。俺がいる」




「うん......ありがとうっ」


言った瞬間、紗恵の潤っていた目から涙が零れた。そして、俺に抱きついてくる。


「ちょっ、やめろよ!」


 口ではそう言いながら抵抗できないのが男だ。されるがままにお互いを密着させる。


 鼓動が聞こえた。力強く、それでいて速く脈打つ。


 それが俺の心臓なのか、紗恵のなのか。

 それは分からなかった。


 ......そんなことは関係ないのか。少なくとも、どちらもドキドキしている。


 紗恵は、俺の背中に手を回してくる。

 ギュッと、抱きしめられる。

 甘い香りがする。溶けてしまいそうなほどに、それは俺を誘惑する。


 この前も、こんな状況になったことがあったっけ。その時はベッドの上だったから今よりも危険だが......。



 あの時は......俺は何もしてやらなかったな。

 だから、


 「紗恵......頑張ろうな」


 俺を抱きしめる力がより強くなった。


 俺はそれに返事をするように、そっと、紗恵の頭に右手のひらを乗せる。


 艶々の髪を、そっと撫でてやる。

 こうしていると、まるで猫みたいだ。

 そういう可愛さを、紗恵は持っている。


 何回撫でても足りない気がした。もう、まるで夢の時間だ。


「お、お兄ちゃん、もう、いいよ......」

 震えた声で言われた。


「ごめんごめん、つい、可愛かったから」


「......」


「!?」


 自分で口にして初めて気がついた。

 いま俺、恥ずかしいこと言っちゃった!?


 俺は自分の言動を思い返し、羞恥とともに俯いた。


「もう、なんなの!!」


 紗恵は怒って部屋から出ていってしまう。

 ドタバタと、廊下を走る音だけが聞こえてくる。


「めっちゃカッコよかったのに......最後の最後でやらかしちゃったなぁ......」


結局、男はそういう生き物なのだ。


 俺が部屋から出たのは、それから二十分も経ってからだった......。

 

 


 


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