7 決定!
*
『本当にそう思うか?』
言った瞬間、紗恵の動きが止まった。それから......。
長い時間が経過した......気がする。
紗恵は眉間に皺を寄せながら、虚空を見つめている。......顔が可愛すぎるので全く怖くない。
長い沈黙の末、痺れを切らした俺が口火を切ろうとした瞬間、紗恵は顔を上げた。
耳......いや、頬までも朱に染めている。
焦り、不安げな表情。
時間の流れすら分からなくなるほどに静寂が立ち込める、この時に。
彼女は何を考えたのだろう。
どうした? そう俺が聞く前に、紗恵は口を開いた。静寂という名の糸が切れる。時間の流れが戻る。
『本当のこと、話して......みようかな』
とても、小さな声。ちょっとした雑音でかき消されてしまいそうなほどに。
だけど、それを掴んだ。
促したのは俺とはいえ、これは紗恵が決めたことだ。全力で応援する。協力する。
目は涙で潤い、心配そうに俺の返事を待つ紗恵。
「(俺に出来る、一番最初の協力......)」
今の紗恵にやってあげられること。
今、紗恵が一番欲しいのは。
......。
紗恵のすぐ折れてしまいそうなほど頼りない囁きとは真反対に、力強く。
真っ直ぐに『俺の妹』を見据えて、
言い放った。
「勇気出せよ、大丈夫だ。俺がいる」
「うん......ありがとうっ」
言った瞬間、紗恵の潤っていた目から涙が零れた。そして、俺に抱きついてくる。
「ちょっ、やめろよ!」
口ではそう言いながら抵抗できないのが男だ。されるがままにお互いを密着させる。
鼓動が聞こえた。力強く、それでいて速く脈打つ。
それが俺の心臓なのか、紗恵のなのか。
それは分からなかった。
......そんなことは関係ないのか。少なくとも、どちらもドキドキしている。
紗恵は、俺の背中に手を回してくる。
ギュッと、抱きしめられる。
甘い香りがする。溶けてしまいそうなほどに、それは俺を誘惑する。
この前も、こんな状況になったことがあったっけ。その時はベッドの上だったから今よりも危険だが......。
あの時は......俺は何もしてやらなかったな。
だから、
「紗恵......頑張ろうな」
俺を抱きしめる力がより強くなった。
俺はそれに返事をするように、そっと、紗恵の頭に右手のひらを乗せる。
艶々の髪を、そっと撫でてやる。
こうしていると、まるで猫みたいだ。
そういう可愛さを、紗恵は持っている。
何回撫でても足りない気がした。もう、まるで夢の時間だ。
「お、お兄ちゃん、もう、いいよ......」
震えた声で言われた。
「ごめんごめん、つい、可愛かったから」
「......」
「!?」
自分で口にして初めて気がついた。
いま俺、恥ずかしいこと言っちゃった!?
俺は自分の言動を思い返し、羞恥とともに俯いた。
「もう、なんなの!!」
紗恵は怒って部屋から出ていってしまう。
ドタバタと、廊下を走る音だけが聞こえてくる。
「めっちゃカッコよかったのに......最後の最後でやらかしちゃったなぁ......」
結局、男はそういう生き物なのだ。
俺が部屋から出たのは、それから二十分も経ってからだった......。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます